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例えば中央信託は北海道拓殖銀行の資産を譲り受けたわけですから、もっとコマーシャル・バンキングのほうにシフトしていく方がいい。これは昨日近畿と大阪が合併を決め、大和銀行の傘下に入ってスーパーリージョナルとして生きようというのと同じで、必ずしも最善策とは言えませんが、そのような役割を付していく必要があると思います。特に信託銀行に関して言えば、日本の信託銀行の収益の大方は資金利益などの銀行業務から得られています。法人信託という信託専門の収益は全体のごくわずかしか占めません。規制のあるマーケットの中で、信託銀行は法人信託業務の低収益性を銀行業務の収益性で補ってきました。とりわけ、低金利下の資金利益は、通常の水準との比較で高い水準となり、ますます信託銀行の収益を支えています。今後の規制緩和の中では、これが逆回転していきます。資金利益が剥げ落ちていきます。低金利の効果の部分だけではないでしょう。大企業はこれから、間接金融ではなく直接金融で資金調達をしていく比率が大きくなります。その場合に、企業はメインバンクである都銀などを残し、それ以外の銀行との取引を縮小していく可能性が濃厚です。信託銀行の収益力は弱体化していくでしょう。それでも上位信託は頑張ると思いますが、中下位信託の営業基盤は劣化していくでしょう。法人信託には信用と高いレベルのサービスが必要です。信用には体力が、その体力で高いサービスを提供するための設備投資をまかなうことができるのです。今は公的資金が入りましたから、安心していられます。今後2、3年間、不良債権処理が続き、一方で競争が続けば、弱い信託銀行には再編が強いられます。それも2行同士の合併ではなく、日本の信託業務の低採算性から、ほとんど独占を築くほどの再編でないと有効でないと考えます。金融再生委員会は、信託についてはそういった観点からの再編を促す必要があります。その意味で、単独行に大量の公的資金を安易に与えるのではなく、大型再編と銀行部門の撤退を積極的に緻密に計画している銀行に公的資金を多額に注入するといった考え方が必要だったでしょう。

それからもう1つ最後は、しつこいようですが不良債権の問題です。不良債権の要処理額というのは、これはもうルール次第、計算次第で、カメレオンのように変わるものだと思います。1つの例として、15ページにちょっと控えめの試算だと思うものがあるのですが、一番左側はもう不良債権の問題は終わりましたという数字です。下から2行目をトータルとして億円単位でみていただきたいのですが、全部終わったという場合は、今期処理額が貸出の30ベーシス(bps、0.3%)ぐらいで、年1兆円ぐらい大手銀行で必要という計算です。

 

 

 

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