3) NPOの成長プロセス―Crossroads Careの場合
英国に限らず、NPOの活動は市民の個人的な体験や小さな社会的イベントが契機となって開始されることが多い。ここでは上でも触れた「クロスローズケア(Crossroads Care)」を事例にして、英国でNPOがどのように誕生し、どのように成長して社会的な存在となっていくのかをみてみたい。
クロスローズケアは1974年に設立された介護者支援を目的としたNPOで、全国214カ所に支援グループのネットワークをもっている。それぞれの支援グループには1〜2人のコーデイネーターが雇用され、介助者を時給で雇って介護者への支援を提供する。その資金は自治体や保健局とのサービス契約による補助金、および自前の募金活動収益から充てられており、利用者には無料でサービスを提供している。各グループを動かすのは地元議員や牧師、医者、看護婦、介護者などで構成される地元委員会で、対象者の選択やサービスの内容、資金の配分などは自分たちで決めている。クロスローズケアのサービスは柔軟性に富んでいることが特色で、介護者が必要とする時間帯にサービスを提供するとともに、介護者がやっているのと同じ方法で介護を行い、介護者が安心して外出できるようにしている。
1972年:
このNPOが誕生するきっかけとなったのは、1972年当時にテレビで放映されていた「クロスローズ」という連続番組だった。この中で主人公の一人が交通事故によって障害者となったが、この番組をみていた視聴者(障害をもつNoel Craneさん)がプロデューサーに連絡をとって交流が始まり、以後Craneさんは番組制作にアドバイスするようになった。このシリーズはその後、主人公を介護する母親の生活に焦点が充てられた。介護に疲れた母親が介助支援を得てホリデーに出かけるが、母親がこの体験を楽しんだことを知った主人公が募金でお金を集めて看護婦を雇用し、障害者をもつ家庭に介護支援の提供を始めた・・・。この番組が放送されると、そういうサービスがぜひ欲しいという内容の手紙が多く寄せられた。そこでテレビ局では県の社会福祉課や医者、看護婦などに働きかけ、2年間の実験プロジェクトを提案した。県でもこのアイデアに共鳴し、Noel Craneさんが住むラグビー(Rugby)市を実験地区として、テレビ局が寄付した1万ポンドを使って実験が開始された。
1974-78年:
この事業の企画を担当していたのが、県の地域看護婦であるPat Osborneさんだった。実験事業は1974年に開始されたが、事業名はテレビ番組の名前をそのままとって「クロスローズ・介護付添いグループ(Crossroads Care Attendant Scheme: CCAS)」と命名された。Osborneさんは県職を辞めてグループの事務局長となり、この運動の火付け役となったNoel Craneさんは、運営理事会の理事長に就任した。1976年に実験事業は終了したが、今度は国の保健省が1年間の資金援助に協力し、実験が継続された。国の担当省の後援が得られたこともあって、これ以降は自治体が介護者支援グループを財政的に支援するケースが増え、1978年までにイングランド各地で12グループが活動を始めた。