エッセイ 老いのつぶやき・胸の内 本間郁子
特別養護老人ホーム編 7]
まだ他人の世話にはなりたくない
今年90歳になるNさんは、特養ホームの中で一番元気な女性である。お客さんが訪ねてくると、とてもうれしそうに話をする。特養ホームに入って5年経つが、自分はまだ一人で十分生活していけるという気持ちがあり、90歳になる今もできれば自活したいと思っている。
Nさんは、一人息子が結婚してからずっと一人暮らしをしていた。趣味を通しての友達やお茶のみ友達が近所にたくさんいて淋しいと思ったことはなかったという。ところが、8年前に、骨粗しよう症にかかり入院することになった。ようやく退院して自宅に戻ることができたが、一人で身の回りのすべてをすることはむずかしいので、週2回ヘルパーに来てもらい何とか自活していた。しかし、周りの人たちは、「一人暮らしはもう無理よ」とか「息子と一緒に住まないのか」とか、「何かあったらどうするの」など、機会あるごとに言った。それどころか、Nさんの息子に直接電話して、「病気の親を一人だけにしておくのはよくない」と言う人までいた。息子は、そのたびに心配して訪ねて来てくれたが、ボケでいるわけでもなく、トイレもお風呂も一人で入ることができるし、食事の準備もゆっくりだが何とか作れるので、安心して帰って行った。大変になったら、ヘルパーに来てもらう回数を増やしたり、緊急の時の連絡をきちんとしておけばいいと二人で話し合っていたのである。
ところが、ある日、何の前触れもなく役所からソーシャルワーカーが訪ねてきた。