考えただけでもゾッとする。そして何よりも、司法の不正義は国家の不正義。これは国際社会の一員である日本の「人権感覚」が問われる問題でもある。
「だからこそ、プロの法廷通訳人を養成することが急務なんです。アメリカでは一九七八年に“法廷通訳人法”という法律ができたことにより、通訳人の倫理規定から資格試験制度までが整備され、今では、法廷通訳は一つの職業として確立していますが、日本では、いまだに専門的な教育を受ける場すらほとんどないのが実情。つまり、通訳人個人の資質だけが頼りという状況なんです」
助教授を務める聖和大学の研究室で、外国人裁判の現状と課題について熱弁を振るう長尾さん。大学では週八コマの授業を持ち、さらには日本司法通訳人協会の会長として、法廷通訳の研修システムづくりにも励む日々は、恐らく、目が回るほどの忙しさに違いない。だが、長尾さんの表情には疲れの色などみじんもなく、むしろ、生き生きと輝いてさえいた。