エッセイ 老いのつぶやき・胸の内 本間郁子
特別養護老人ホーム編 1]
私らしく生きる
1年ほど前に『特養ホーム入居者のホンネ 家族のホンネ』という本を出版してから半年ほどたったころ、特養ホームに入居しているある男性から一通のハガキが届いた。そこには、「人生の途中まで順風満帆できた私だが、ここを終のすみかとして人生の最後を迎えるのかと思うと、人間の運命とはわからないものだとつくづく思い知らされた気がする。今ようやく『私らしく生きる』ことに立ち向かっている」と書かれていた。そして、私に自分のいる特養ホームに来てほしいとあった。
私は、そのハガキの内容に心を動かされながらも、そのころ別の調査で日程が詰まっていたこともあり、「近いうちに訪ねたいと思います」と返事を出しただけで、そのままになっていた。
それから2カ月後、この男性からまたハガキが届いた。「忙しいと思うが来てくださいませんか?」と。その男性のことを忘れるともなく忘れてしまっていたことに心をとがめた私は、今度はすぐにその男性を訪ねた。
彼は、手足、口、目がゆっくりと動かなくなる「骨髄小脳変性症」という進行性の神経難病にかかっていた。車イスで移動し、言葉も聞き取りにくいが一語一語ゆっくり話すとわかる。私あてのハガキは、ワープロで書かれていたが、なんと四時間もかかったという。