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表紙絵から

池田げんえい/1946年神奈川県生まれ。日本児童出版家連盟会員。創作『鬼の会』同人。日本デザイナー学院講師。はり絵作家。

 

●平成・東海道五拾三次

その49「阪之下」

 

鈴鹿峠

ささやきも外に聞こえるほどの小さなおでん屋で真っ黄々カレーにソースをジャバジャバかけながらバス時刻を聞く。店のオヤジいわく、「さして気にもならないダラダラの登り道だから、今から歩けばバスよりも早く坂下宿に着いてしまう。学生は歩け歩け」と説教をたれる。40のこの歳で学生もないものだが迫力に押されて、また歩く羽目になってしまった。

坂下宿とは鈴鹿峠の入り口辺り、絵ではかなりの渓谷風だ。ちょっと恐ろしかったがまだ陽も高い。ひょいと手を伸ばせば届きそうな山々の間を1時間以上は歩いただろうか。車以外、行き交う人はひとりもない。山肌を無残に削り、中腹に高速道路が包帯のように巻き付いている。その下に坂下宿がひっそりとへばりついていた。20軒もあるだろうか、とにかく人がいない。バスは2〜3時間に1本、ウヘ〜、心の底からサビシー!

 

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「筆捨山」。名の通った絵師すらこの峰々を思うように描けず、筆を投げ捨てたといわれる。

 

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安藤広重絵「阪之下」

渓谷を挟んで、奇岩がそびえ立つ名勝"筆捨山"を、旅人たちがものめずらしそうに眺めている図。絵右側にあるのは見晴らし台の休み処。眼前の切り立った山肌と対照的にのどかな風景だ。

 

 

 

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