図2.97に示すように、回路の抵抗の他にインダスタンスLをもった誘導負荷回路を整流出力端に接続する場合、位相制御角αと出力電圧及び負荷電流との関係は抵抗負荷の場合と大いに異っている。
インダクタンスLをもつ回路では、その回路中の電流が減少するように変化すると、インダクタンスLの保持していたエネルギーを放出して電流を流れ続かせるように働く。これはちょうどインダクタンスLに図中の矢印のELのような逆起電力が発生するとみなされ、したがって、整流器出力の電圧が負になっても、電流が流れ続けようとする。インダクタンス成分が余り大きくない場合には、電流が断続する現象を生じるが、インダクタンス成分が大きくなると電流は連続するようになる。位相制御角αが90゜になると、脈動電圧の正成分の大きさと負成分の大きさとが同じとなり、そのため出力平均電圧は零となる。
(iii) 直流電動機負荷の場合
直流電動機の電源として制御用整流器を使用し、制御整流器の出力電圧を変化させて直流電動機の回転数の制御を行う場合の注意すべき動作特性について、代表的な三相全波純ブリッジの結線方式を例にとり説明する。
この負荷回路は電動機電機子回路の抵抗の他に大きなインダクタンス成分を含んでいるので、回路の分類としては誘導負荷であるが、直流逆起電力が発生する点が(ii)項の誘導負荷の場合と異る。
電動機が整流器から電力を取って運転を行っている場合は、整流器の位相制御角と出力電圧の関係は(ii)項の誘導負荷の場合と同じであるが、図2.98に示すように電動機が負荷側から回されて発電機として動作し、電動機からサイリスタを通じて電源に電力を送り返す作用をする場合、即ち逆変換運転(インバータ運転)時のサイリスタの位相制御と電圧、電流の様相は非常に特徴的で、重要な機能を発揮する点であるので注意しなければならない。
サイリスタ整流器のインバータ運転が行われるには、サイリスタの整流電流の方向は変り得ないので、整流器出力電圧の極性を(+)(-)逆とし、この負極性電圧に打ち勝つような逆起電力が負荷側回路中に発生しなければならない。直流電動機によるインバータ運転では、この逆起電力は回路のインダクタンスのほかに、電動機によって有効に発生される。負荷回路中に十分な大きさのインダクタンスがある場合は図2.92にて示すように、位相制御角αが60゜より大きくなると電圧波形の点から見て、周期的にインバータ動作が起り、αが90゜に至ると直流平均電圧は零となる。したがって、α=0〜90゜の領域で順変換運転(整流器運転)が行える。