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(2) 姉子の浜の保全の意義

日本列島全域で自然海岸の割合が大きく減少し、そのかけがえのない価値あるものを失っていくことに対する警鐘が唱えられ始めて久しい。しかし依然、埋め立てや干拓、護岸、人工構築物の設置が行われ続けている。福岡県においても完全な自然海岸と言える海岸線は極わずかになってきている。玄海国定公園に指定されているこの日本海側の海岸線というのは、その特徴として弓状の海岸線が連続しているというのが言える。この弓状というのが人間の営みに利用するには最適な形状である。すなわちそのような海岸線は、港湾化されたり、レクリエーションの場として消波ブロックが置かれたりと様々な人間の手による改変が行われている場所でもある。そのため、この地域はもともと地質や荒波などの条件を備えていたため、鳴き砂の浜が多く存在していたと考えられるが、現在では数ヶ所しか残っていない状況である。

一方、我が国の海浜の自然環境の保全に関する法律を見てみると、自然公園法に基づく海中公園地区指定制度(昭和45年)、自然環境保護法(昭和47年)、瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和53年)などである。しかしこれらは、規制が適用される地域が限られていることや、規制措置が弱いことから、必ずしも十分に機能していないと言えるだろう。

また近年では、観光やレクリエーションの過度の利用をさけ、自然環境の適正な保全を目的とした環境基本計画(平成6年12月閣議決定)がある。これは1987年に施行された「リゾート法」(総合保養地域整備法)により、日本全国の自然公園が、観光地やレクリエーション利用のために優先的に開発されていった弊害に対しての方策であると言える。福岡県においてもこの「リゾート法」に対応した「玄海レク・リゾート地域整備基本構想」が策定されている。また姉子の浜のある二丈町は「糸島コースタルゾーン」として重点整備地域となっている。近年はアウトドアブームにより自然公園の利用者が増加しており、それに伴った利用施設の整備や、工作物の設置の許可申請の件数の増加などが開発行為として行われている。また公園内のゴミの放置、植物の盗掘、車両等の違法乗り入れ等の諸問題も生じている。実際姉子の浜においてもレクリエーション客の利用による弊害と、それに対する方策の遅れが見られる。

次に、福岡県による自然環境の保全活動の状況を見てみる。昭和48年から環境庁によって自然環境保全基礎調査(いわゆる「緑の国勢調査」)が行われている。これは動物・植物・地形・地質・河川・湖沼・海岸等の自然環境の現況及び人為的改変状況を把握するための調査である。しかし福岡県によって環境庁から受託し実施された調査は、平成9年度の昆虫・植物の分布調査及び植生調査、特定植物群落調査だけである。またその他に実施されていることは、環境指標の森の調査や希少野生生物調査等である。自然海浜の保全地区の設定も行われているが、これは瀬戸内海環境保全特別措置法に基づくものであり、日本海側では行われていない。一方で姉子の浜では建設省の事業によって、国道の整備やその施設として「道の駅」に準ずるパーキングが設置されたりしている。

 

 

 

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