一方、血液中の甲状腺ホルモン濃度の異常も0.1%前後に検出されるが、症状のある子供達は少なく、多くは血液のホルモンを測定して初めて異常に気付かれるというのが大半であった。ただし、ゴメリ周辺では甲状腺機能低下症が他地区より多く認められ、またセシウム137の体内線量(Bq/kg)も高い傾向にあり(図4)、放射線被曝との関係ではさらなる解析が望まれていたが、最近の報告でもその傾向が支持されている。
甲状腺には自己免疫異常の関与する疾患が多いことも知られているが、たとえ無症状であっても血液中に自己抗体が存在することがある。今までは成人を対象とした検査でその頻度が判明していたが、今回の本プロジェクトによって小児の頻度が明らかとなった(図9、10)。
その結果、既に小児期からある一定の頻度で自己抗体陽性者のいることが判明し、これらの陽性者の中から将来甲状腺機能異常症が発症することが予想されるが、幼少時期から既に男女差が認められた。また、検診年次とともに超音波診断による甲状腺輝度異常の頻度が増加するため(図11)、きめ細かい追跡調査の必要性が示唆された。なお、放射線被曝により甲状腺自己抗体の陽性頻度が増加するとの報告もあり、今後も調査が必要である。