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白書づくりで盛り上がった仲間意識を持続させて、公園改修の際に住民が自らワークショップで議論を重ねて改修プランを出してきた。ワークショップにはふだん計画作成に関わることの少ない子供たちや主婦が大勢参加した。公園の維持管理は周辺住民が引き受け、整備についても住民が出来るところは住民がしたいという住民の主張がプランには盛り込まれている。

また、高齢社会になって、出来るだけ近いところに介護に関わる施設や機能がたくさんあることが住民の望みである。しかも、新たに施設をつくるよりも、既存の施設を活用すべきだ。身近な既存施設として住民が目をつけたのは学校の「余裕教室」と「老人憩いの家」である。これをデイサービスの場所として活用したい。これまでの行政の縦割り所管で言えば、学校は文部省の管轄であり、老人憩いの家は元気老人の施設である。どちらも介護が必要な高齢者のための使用に供することができないというのが、いわば「筋論」である。

しかし、住民の側からのプラン提起で行政にも風穴が開いて、学校と老人憩いの家にデイサービスの機能が設置されることになった。

近くの公共施設の活用許可が下りないならば、自分が所有するスペースをデイサービスの実験場にと提供した人も居る。そこでは、その地域らしいサービスのあり方をそれまでボランティアで老人福祉に携わってきた地域の人のネットワークを生かして、自分たちで考えようと会合を重ねている。

一方、地域防災についてはこれまでの町内会と一部住民の参加による消火訓練に終わっていた防災訓練が、白書づくりでの話し合いから、学校を使った避難所訓練が地域住民からの提起で実施された。

 

「まちづくり力」が開発される

 

この川崎区の例からは、次のような新しい住民の顔が見えてくる。

住民は単に行政に要望をつきつける役割を脱し、公園の維持管理など地域のために汗を流すことをいとわない気持ちを持っている。

また、施設は新しいものをつくるばかりがいいのではなく、既存の施設をよく活用すべきたという地域経営の視点も身につけている。

行政が縦割りであったように、住民もいろいろな団体に分断されていた。それらの利害が相反する場合が生じたとき、住民間で調整しなければ地域の問題が解決しないことに住民も気がつきはじめたのである。

私は、こうしたまちへ関わろうとする意欲が「まちづくり力」だと考える。

つまり、要求するだけでなく、まちに対して自分ができることはしようと思うし、さまざまな施設や施策を相乗的に活用して効果を上げる経営志向、住民間で利害を調整しようとする調整力、こうしたことは、行政は「つくる人」、住民は「使う人」という従来の関係では、生まれ得なかった力である。「まちづくり力」が、「まちづくり白書」の作成というチャンスを与えられ、地域の様々な人々や行政職員や専門家たちとともに自分の地域について考え、議論することによって生まれることが、この例から学ぶことが出来る。

 

コミュニケーション能力を磨くことが必要

 

行政がまちづくりの施策や事業のプランづくりや実施を行政が独占してきたこれまでのスタイルを、住民もプランづくりや実施に関われるスタイルに変える。その時に、これからは住民主導だと言ってすべてを住民に投げ出すのは得策ではない。なぜなら、住民はこれまでの行政依存のスタイルになれきっており、自己決定や自己責任などの新しい概念になじんではいない。

これまで行政に依存してきた住民意識の変革を促す行政からのギアチェンジの仕掛けが必要である。それが「まちづくり白書」の作成であり、パートナーシップを導き出す大変よい仕掛けであると思う。

そのときに忘れてならないのは、住民ときちんと議論ができるコミュニケーション能力を行政職員が身につけて、住民との話し合いに参加することである。

行政職員はそれまで役所という閉鎖的な「ムラ社会」の中で、上司の命令と、予算と、前例を頼りに仕事を進めてきた。用地交渉などの担当は別にして、異なった価値観の人々との話し合いをする必要があまりなかった。

しかし、自己決定、自己責任の分権時代のまちづくりを担う行政職員の必須の能力は、住民の意見を聞き、自分の意見を伝え、パートナーシップに基づく合意を生み出していくコミュニケーション能力である。このコミュニケーション能力こそ、「まちづくり力」の源泉であり、パートナーシップで鍛えるべきものといえるだろう。

その意味で、住民自身もコミュニケーション能力を磨くことが必要なことはもちろんである。

 

 

 

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