6 これからの市町村合併を巡る課題
(1) 自主的合併か強制的合併か
平成7年の合併特例法の改正により、法の目的が、合併に伴う障害の除去を図るものから自主的な合併の推進というスタンスにかわった。
しかしながら、アメを与えることもムチを振りかざすこともドラスティックにはできない状況の中で、地方全体が赤字財政という重石を載せた泥船のように沈みつつあると現状を危惧する者もいる。
今回の合併特例法の改正においては、平成17年度までの時限措置として、住民発議制度を拡充して議会への付議を市町村長に義務づけること、及び都道府県知事が合併協議会の設置を勧告できることとされたが、これは、強制力にならないギリギリの線で合併の促進を図るものと考えられる。
(2) 日本の基礎的自治体の規模
日本の基礎的自治体はドイツやフランスなどと比較してみてもわかるように、国際的に見て、人口規模的にはそれほど小さい訳ではない。最近の議論では、市町村合併の動機として、スケールメリットによる行政事務の効率化及び行政能力のポテンシャルの向上が期待されているが、こういった発想というのは、企業リストラ論的発想につながり、まちづくりに資するどころか逆に村社会に代表される伝統的な自治機能の否定となるおそれもある。
市町村合併研究会報告書においても、「昭和の合併においては、主として合併後の一体性が重視されたが、今後の市町村合併においては、その後の社会経済情勢の変化を踏まえ、合併後の市町村に一体性のみならず、地域社会のまとまりも重視しながら、個性豊かな地域社会の創造に配慮すべきである。」とされており、役所が機能的に充実するためにも、自治機能の広域化と狭域化の2つを図る方向にエネルギーを傾けて、地域社会の振興を図っていくことが重要と思われる。
(3) 介護保険は平成大合併のコアサービスとなるか
明治の大合併は小学校の設置運営、昭和の大合併は中学校の設置運営というコアサービスを軸に展開された。そうなると、平成の大合併のコアサービスは介護保険か、という発想が自ずと生じてくるが、介護保険が他と違うのは、小中学校が地域の村意識に働く一種のシンボルであるのに対し、介護保険における市町村の位置づけは、福祉サービスを供給するための機能として有効性をもつ地域単位を効率よく掌握するために一番適当な保険者という仕切りに過ぎず、あくまで機能的な存在であり、人と人を結びつける求心力にはならない可能性がある。
(4) 広域連合・一部事務組合に対する批判
行政事務遂行上、意思決定や事業実施等は単一の団体で行う方が効率的であり、責任の所在も明確になることが想定されるが、最近の広域連合や一部事務組合という手法の多用は、住民の目からは責任の所在等が分かりにくく、合併を避けるための隠れ蓑となっているのでないかとの批判もある。