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7.4 溶接作業細目

 

7.4.1 溶接準備

 

溶接部の品質は、作業環境の影響を受けるので、4.1の(4)〜(8)で述べた溶接作業場についての注意事項は是非とも守ることが必要である。また、溶接作業開始に当たり、あらかじめ準備をしっかりと行うことは、作業能率と溶接部の品質の両者にとって重要なので、以下に述べる。

(1) 溶接する物の形状寸法、構造、材質、使用目的その他について、図面をよく見て理解しておき、特に注意を要する点や不明な点は現場の責任者又は監督者に質問して、あいまいな点を全て解消してから作業にかかるようにする。

(2) 必要な溶接工具類、補助材料等は、あらかじめ点検したものを手元に揃えておき、溶接作業を始めてから道具を捜したり、途中で工具等の手入れをしたりすることのないようにする。

(3) イナートガスアーク溶接装置と機器は、鋼材の被覆アーク溶接等のものと比べて複雑であるから、それに不具合な点があっては良好な溶接ができない。7.1.2で述べた溶接装置の取扱い要領に従って溶接開始前によく点検し、調整しておかねばならない。

(4) 本溶接にかかる前に、他のアルミニウム合金板上で試験的にアークを出して溶接条件を適正値に調整し、アークの安定性やクリーニング作用の効果に異常のないことを必ず確認しなければならない。

(5) 安全衛生に注意し、完全な保護具を装着しなければならない。また、作業台、足場等を点検し、確実な作業を行いやすいように心掛けるとともに、母材を不用意に傷つけたりしないように注意することも必要である。

(6) 予熱は、寒冷地でも行わないのが普通である。

 

7.4.2 拘束治具、溶接変形及び溶接順序

 

(1) 拘束治具

溶接によるひずみをできるだけ防止し、また、組立精度を確保するため、拘束具や固定治具を使用するが、これらは組立方法やその部位、溶接順序等の関係もあって、必ずしも一様ではない。アルミニウム合金は、変形が大きいために拘束具や固定治具の必要性は高いが、一方、鋼材よりも剛性が低いから、比較的簡便な小型のもので効果のある場合が多い。拘束具の代わりに重錘を用いることもできる。したがって、建造する船形と組立てる部位によって、それぞれ工夫することが大切となる。

これらの拘束具や治具の汚れは、溶接に悪影響を与えることがあるので、十分清潔にして使用しなければならない。また、ミグ溶接では直流アークを使用するため、溶接継手に近接して使用する拘束治具(例えば、裏当て金等)は、磁気吹き*7.31防止上から銅合金、SUS 304鋼又は中・高強度アルミニウム合金等の非磁性材料で製作するのがよい。磁気吹きの心配がなければ鋼製で差し支えないが、よく磨いて錆を除去しておくことと、切断のかえりを除去し、また、角等は面取りをし、アルミニウム合金を傷つけないように配慮することが必要である。

アルミニウム合金製漁船は、19トン以下のものがほとんどなので建付け建造が採用されており、かつ、組立治具としては大げさなものを使用せず、本船の骨組を治具として組立てることが多い19)。したがって、4.4.3で述べた仮止め・組立工具類が多用され、これとストロングバック及び変形防止材によって拘束して行う例が多い。甲板や隔壁用板の板継ぎ、πセクションの長手方向突合せ溶接(両面一層溶接)等には、ミグ自動溶接と関連してFig.7.45に示すような拘束具が使用されている*7.32

(2) 溶接変形

溶接は局所的に大量の熱を投入して母材の一部を溶融凝固させるのであるから、著しく不均一な温度分布を生じ、結果として溶接部近傍の高温に加熱された領域に塑性変形や体積変化を生じ、これらが溶融金属の凝固収縮と関連して残留応力を生じるとともに、溶接変形を起こす原因となる。これについては、母材を溶融させずに溶接変形を利用したのが6.2.3で述べた加熱曲げであるから、詳しい説明は省略する。

 

*7.31 直流を用いるミグ溶接では、鋼材等のような磁性材料を使用したとき、溶接電流によりアークの回りに誘起する磁場がアークに対して非対称の場合に起こる現象をいい、磁力によってアークが風に吹かれたようになって溶接し難くなる。アークブローともいう。

*7.32 ルート間隔0〜2mmとして、図のように板の位置決めをしてから、両端の1]、2]を仮付け溶接する。その後に平板重錘及び箱型重錘を乗せるが、前者の下面にはビニールテープ等を貼って、アルミニウム合金板を傷つけないようにする。これらの重錘の代わりに、大型のH型鋼を使用してもよい。次に3]を仮付け溶接し、その位置から両側に対称法で仮付け溶接をする。

 

 

 

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