溶接設計(2)
Design Guide of Welded Aluminium Structures (2)
竹内勝治*
Katsuzi Takeuchi*
2. 母材及び溶接継手の静的強度
2.1 母材の静的強度
設計に当たり、各材質の許容応力等を算定するのに先ず必要なのは、後出の2.4.1で述べるように耐力(引張り)及び引張強さの最小値である。1.2で述べた各規準又は規格において基準値又は基準強度と呼ばれるものは、必ずしもこれと一致していないが、ここでは主要な溶接構造用アルミニウム合金のJlS規格における引張強さと耐力の最小値をTable 16に板材、Table 17には形・棒・管材の場合をそれぞれ示した。この他に必要な圧縮耐力、せん断強度及び支圧強度等の測定例は、我が国では比較的乏しい。適切なものがない場合の考え方としては、引張強さ及び耐力の最小値に基づいて
?@ 縦弾性係数は圧縮も引張りと同じにみなし、圧縮耐力を(引張り)耐力と同値にとる。
?B 支圧強さは引張強さの2倍程度とする
のが一般的であり、例えば、前出のTable 3に示した土木構造物設計・指針案における各値は、この方式によるものである。
一方、AA規準30)では、Table 16と17に併記したように各最小値*1が提示されている。これらの数値から上述の?@〜?Bを検討すると、ほぼ妥当なことが分かる。ただし、?@の場合には、引張耐力と圧縮耐力の間に差がないのは6000系合金のみであり、5000系合金の圧縮耐力は引張耐力の90%前後となっていることに注意を要する*2。また、?Aでは、せん断強さが引張強さの約60%、せん断耐力は引張耐力の58%程度なので、全く問題はない。?Bの支圧強さは引張強さのほぼ2倍、支圧耐力は材質による違いも多少見られるが、引張耐力の1.7倍前後の値である。
* (元)住友軽金属工業(株)技術研究所
Formerly, Technical Research Laboratories, Sumitomo Light Metal Ind.,Ltd.
*1 圧縮耐力は、標点距離に0.2%の永久ひずみを生じる圧縮応力である。せん断強さは、厚肉材の場合には鋼製工具を用いた丸棒試験片の2面せん断試験、板材では円板打抜き試験によってそれぞれ測定する。せん断耐力は、ねじり試験で0.2%の永久せん断変形を生じたときのせん断応力である。
支圧試験は、鋼製丸棒(pin)を縁端距離(孔の中心から負荷方向の試験片端まで)が棒径の1〜2倍とした有孔板試験片に隙間なく挿入し、棒に負荷して孔の変形量を測定する。支圧強さは、最大支圧荷重を孔の投影面積(棒径×板厚)で除した値であり、支圧耐力は孔径に2%の永久変形を生じる支圧応力を指す。両者とも縁端距離の影響を受け、各Tableの値は縁端距離と棒径の比が2以上の場合である。なお、これらの数値はピン又はボルト・リベット結合で使用される。
*2 文献31)における実験では、5083-H112押出形材の圧縮耐力は引張耐力の約90%、7N01-T5押出形材では両者ともほぼ同等であった。6061及び6063合金小型試験片の結果32)も類似なので、熱処理型合金は引張りと圧縮の間に耐力の差がほとんどない、とみなされる。