例えば、ピマインディアンは、38,000年前に中央アジアより、メキシコへ移動し、一部がアメリカ南西部アリゾナ州に移り住んだとされる狩猟民族である。アリゾナ州のピマインディアンに肥満や糖尿病が急増したのは第2次世界大戦後である。貧困の為に、米国政府より小麦粉・砂糖・油が支給され、油で揚げたパンに砂糖をまぶした食生活と戦時中に覚えたハンバーガーなど高脂肪食を中心とした食習慣化が肥満及び糖尿病を激増させたと考えられている。ちなみに、メキシコに今でも住み伝統的で質素な食生活と農作業など肉体労働に従事しているピマインディアンは、アリゾナ州のピマインディアンに比べ、平均体重は約26kgも少ないとされる。日本人はもともと糖尿病になりやすい民族であることが指摘されている。近年、食生活の欧米化に伴い、糖尿病患者は690万人と急増しているのは本変異が日本人に多いことが一因しているかもしれないことが指摘されている14)。ピマインディアンと同じ轍を踏まないためにも、現在の食生活を再点検する必要があろう。それ故、伝統的な日本的食生活を取り入れた動脈硬化予防教室の充実が望まれていると考えられる。特に、本変異を持つ高度肥満女性や糖尿病患者では減量が困難であり15-17)、効果的な健康教育技法18-21)や個々の患者さんの遺伝素因をも考慮したきめ細かな健康増進・疾病予防活動が望まれる22)。
文献
1. 吉田俊秀、坂根直樹: 認定医・内科専門医のための内科学レビュー97'―最新主要文献と解説―(酒井紀、早川弘一編)、東京: 総合医学社、1997;141-146.
2. 吉田俊秀、坂根直樹: 食事療法-1、Evidence-Based Medicineをめざす糖尿病治療(春日雅人、阿部隆三編)、東京: 南江堂、1997:6-15.
3. 坂根直樹: 肥満におけるβ3-アドレナリン受容体の意義、肥満研究5:162-168.
4. Walston J, Silver K, Bogardus C, et al: Time of onset of non-insulin-dependent diabetes mellitus and genetic variation in the β3-adrenergic-receptor gene. N Engl J Med 1995;333:343-347.