[9] 降圧薬の効果に及ぼす食塩摂取の影響
―へき地の患者を対象とした多施設共同研究―

I. はじめに
疫学調査により食塩摂取量が増加するとともに高血圧の出現頻度も増加することが明らかにされた。また、これまで降圧薬として広く用いられてきた利尿薬は尿中ナトリウム(Na)排泄を促進させることによって降圧効果を示すために、食塩摂取量の多い患者では降圧効果が大きいことが明らかにされている。近年、利尿薬に替わりカルシウム(Ca)拮抗薬やアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が降圧薬として広く用いられるようになったが、これら薬物の効果に及ぼす食塩摂取の影響は十分に検討されていない。
高食塩および低食塩負荷下にCa拮抗薬の降圧反応を検討したこれまでの成績によれば、Ca拮抗薬の降圧作用は食塩負荷の程度にはあまり影響を受けないとされている。しかしながら、これらの報告は食塩負荷に対して典型的な反応を示す症例のみについての結果であり、すべての高血圧患者においてCa拮抗薬の降圧作用が食塩の摂取状況にかかわらず一定であるとは必ずしも結論できない。また、食塩の摂取状況によって血圧の基礎値が異なる可能性があるため、Ca拮抗薬の降圧作用が食塩摂取の影響を受けないと仮定しても、実際には一定の目標値までの血圧下降が必ずしも得られていない可能性がある。本研究ではこの点を明らかにすることを目的とし、自治医科大学を卒業した医師の勤務するへき地医療機関に通院する患者を対象として多施設共同研究を行った。
II. 対象と方法
A. 対象
自治医科大学卒業生が勤務する全国の医療機関に通院する本態性高血圧患者を対象とした。