IV. 考察
A. 正常血圧患者における血圧日内変動と臓器障害の関連
以前に我々は高齢者高血圧患者を対象に携帯型無拘束性血圧測定装置とMRIによる脳の画像撮影を行い、両者の関連を比較した。夜間血圧が下がらない症例(non-dipper)では夜間血圧がさがる症例(Dipper)に比べてラクナ梗塞の病変数が多く、かつPVH病変が高度であるという結果であった5)。その後、夜間血圧と臓器障害の関連に関する報告が多数発表されるようになった6-8)。このように、夜間降圧がみられない高血圧患者は臓器障害を進行させることは明らかであるが、夜間降圧がみられないという現象が臓器障害の結果として生じているのかは明らかではない。Non-dipperを生じる機序としては、このような臓器障害を伴うものの他に、2次性高血圧、自律神経障害9)、睡眠時無呼吸症候群10)、食塩感受性11)、身体活動度12)の関与などが考えられている。今回正常血圧患者において夜間降圧の程度と臓器障害の進行度を検討したが、non-dipperを呈する群はDipperを呈する群に比べ、心臓超音波検査における心肥大の程度と血中のナトリウム利尿ペプチド(ANP, BNP)からも、心臓リモデリングの進行を示唆する所見が得られた。このことから、夜間降圧を規定する因子として、臓器障害、特に、心臓リモデリングの程度が関与している可能性がある。
B. 高血圧患者における無症候性脳梗塞と頸動脈硬化及び頭蓋内動脈硬化との関連
従来、日本人は欧米人と比較し、虚血性心疾患よりも脳血管障害の疾病率、死亡率が高いことが特徴である。また脳血管病変に関していえば、日本人などの黄色人種や黒人では、頭蓋外動脈病変よりむしろ頭蓋内動脈病変による虚血性脳血管障害の多いことが特徴とされてきた4)。しかし、近年我が国では生活様式の欧米化に伴い頸動脈病変が増加しているといわれている。今回の我々の結果でも頭蓋内動脈病変と比較し頸動脈病変を有する患者は多かったが、無症候性脳血管障害は、むしろ頭蓋内動脈と関連を認めた。Risk factorの検討では、頸動脈病変の有無で糖尿病や高脂血症の頻度の差はなかった。頭蓋内動脈病変の有無では年齢に明らかに差があったが他のRisk factorには差がなかった。頭蓋内外動脈病変と無症候性脳血管障害との関連を検討するにあたって興味深い結果がえられた。頭蓋内動脈病変を有する症例は、ラクナ梗塞、中でも白質部に生ずるものが増加した。白質部に生じるような皮質枝系のラクナ梗塞と基底核・視床など深部に生じる穿通枝系のラクナ梗塞は、そのRisk factorは異なると考えられている13)。皮質枝系のものは年齢や高血圧が関与し、穿通枝系のものは冠動脈疾患の有無など全身の動脈硬化の進行が関与すると考えられている13)。今回の結果も、無症候性ラクナ梗塞の出現の差から、頭蓋内外動脈病変の進行には、それぞれ異なる背景因子が関与することが示唆された。