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■事業の内容

従来、船舶のバラストタンク内の防食法に関しては、塗装を中心にその対応がなされてきたが、昨今のタンカーにおけるダブルハル構造の要求に伴う塗装面積の増大、更には塗装作業の人手不足問題もあり、塗装に代わる防食方法の開発が重要な課題となっている。この問題の解決策としては、バラストタンク内の酸素濃度を低下させて腐食を防ぐ方法が有力視されているものの、その有効な手段については具体化されていなかった。
 近年、窒素ガス製造装置が従来と比較して高性能となり、船舶内において窒素ガスを製造し、バラストタンク内に充填することにより酸素濃度を低下させる防食方法の実現性が高まったが、窒素濃度や周辺の環境温度によっては防食効果にばらつきがでることから、実船レベルでの防食法としては未だ確立されるには至っていない。
 よって本事業では、これまでの基礎実験から得られた結果を基に、実船レベルにおける高純度窒素ガスの供給、置換、維持をシステム化した船舶バラストタンクの防食システムの研究開発を実施した。
(1) 実船実験(継続)
 [1] 実船実験の継続
   昨年度に引き続き、下記試験鋼材、試験構造部材を実船のバラストタンク内に設置し、実航海中常時当該バラストタンクに窒素を供給し、酸素濃度を規定値以下に保ち、試験鋼材、試験構造部材の腐食速度の比較を行った。
   試験鋼材 縦150mm、横70mm、厚さ5mmの鋼板を塩化ビニール製のホルダーに7枚取り付け、3セットずつバラストタンク内に計6ヶ所装備した。
  ・高張力鋼板KA32相当品 黒皮除去後 無塗装
  ・高張力鋼板KA32相当品 黒皮付き  無塗装
  ・高張力鋼板KA32相当品 黒皮除去後 無機ジンク塗装
 実験供試船(神栖丸)航海経過
1998. 3.21
↓      オーストラリア(ポートヘッドランド)
1998. 4.23
↓      鹿島
1998. 4.26
↓      オーストラリア(ダーリンブルベイ)
1998. 5.22
↓      鹿島
1998. 5.27
↓      オーストラリア(ポートヘッドランド)
1998. 6.28
↓      鹿島
1998. 6.29
↓      鹿島−小倉
1998. 7. 1
↓      小倉
1998. 7. 5
↓      オーストラリア(ポートヘッドランド)
1998. 8. 1
↓      鹿島
1998. 8. 2
↓      鹿島−小倉
1998. 8. 4
↓      小倉
1998. 8. 8
↓      カナダ(ロバーツバンク)
1998. 9. 6
↓      鹿島
1998. 9. 8
↓      鹿島−和歌山
1998. 9.10
↓      和歌山
1998. 9.14
↓      オーストラリア(ポートヘッドランド)
1998.10. 9
↓      鹿島
1998.10.10
↓      鹿島−小倉
1998.10.12
↓      小倉
1998.10.15
↓      オーストラリア(ポートヘッドランド)
1998.11.12
↓      鹿島
1998.11.13
↓      鹿島−和歌山
1998.11.18
↓      オーストラリア(ポートヘッドランド)
1998.12.18
↓      鹿島
1998.12.19
↓      鹿島−和歌山
1998.12.24
↓      オーストラリア(ハイポインド)
1999. 1.21
↓      定期検査の為ドック入り
1999. 3.14
↓      鹿島−和歌山
1999. 3.19
↓      オーストラリア(ウォルコット)
 
 [2] 実船実験データのとりまとめ
   試験片について、時間あたりの腐食量の計測や計測した酸素濃度、圧力、温度及び窒素供給量からそれらと腐食量との関連の分析を行った。また、試験構造部材については、定点を超音波にて減肉厚状況を計測し、腐食に関する試験片の試験結果との整合性を確認するとともに、応力による腐食の進展に関しての確認を行った。
(2) 総合評価と最終まとめ
   最終年度に当たり、3月までの実船実験のデータをもとに、下記の点についてまとめを行った。
 [1] 酸素濃度と腐食速度の関連
 [2] 高純度窒素ガスの製造方法
 [3] 窒素ガスによる供給・置換・維持システム
 [4] 経済効果と今後の問題点
■事業の成果

船舶のバラストタンク内の酸素濃度を低く保つことによって、腐食の促進を防止できることが確認されると共に、鋼材に応力を与えた状態においても応力腐食が促進されることがなく、窒素を使用した防食法が十分に実用性のあるものであることを確認した。
 一方、窒素供給装置及び同システムに関しては、常時バラストタンク内の窒素圧力を一定に保つシステムがバラストタンク内の酸素濃度を低濃度に維持できることを実船実験により確認でき、また、蒸発窒素を有効に活用することにより、バラスト水の溶存酸素による酸素濃度の上昇を抑えることの効果も確認した。
 更に実船に適用した場合の問題点を明確にするため、VLCCをモデルにした実船搭載時の窒素製造装置、同供給装置並びにこれら要素機器を使用した防食システムの試設計、配置検討を行い、VLCCにおいても十分に成立するシステムであることを示すと共に、その結果を基に試算した経済性においても窒素製造装置を本船に搭載することで本防食システムが経済的にも成立するシステムであるとの結論を出し、本事業を完了した。
 以下に酸素濃度と腐食速度の関連結果、高純度窒素ガスの製造方法、窒素ガスによる供給・置換・維持システム、実船への適応例のそれぞれのまとめを記す。
(1) 酸素濃度と腐食速度の関連
 気相中を低純窒素(酸素濃度2%以下)で置換した場合には防食の効果は少ないが、純窒素で置換して酸素濃度を0.5%以下とした場合には、腐食速度を通常の1/10程度に低減できることが判明した。
(2) 高純度窒素ガスの製造方法
 窒素ガスの製造方法には空気から直接ガスの状態で窒素ガスを分離するPSA法と膜分離法、空気を液化して窒素を分離する深冷分離法、窒素ガスボンベ、液体窒素として供給する方法などがあるが、これらの価格優位性を比較した結果、各システムの優位性は窒素の製造容量と純度により異なることが判明した。
 PSA法純度99〜99.99% 容量0〜1000〓/hの比較的小・中容量において
優位
深冷分離法  99.99%以上の高純度で1000〓/h以上の製造容量において優位
膜分離法   99%以下の純度で容量1000〓/h以下の小容量において優位
(3) 窒素ガスによる供給・置換・維持システム
 バラスト排出時及び初期パージの状態においてもバラストタンク内に海水を注入後、気相部分を窒素ガスに置換することで短時間で効率的にバラストタンク内を0.5%以下の酸素濃度に低減可能であることが判明した。





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