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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月12日12時45分 長崎県西彼杵郡松島沖合 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートブラザー 全長 6.58メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
44キロワット 3 事実の経過 ブラザーは、昭和54年に進水し、船外機2基を備えたヤマハ発動機株式会社製のFISH-22型と称する、航行区域を限定沿海区域とし、最大搭載人員を6人としたFRP製のプレジャーボートで、船首から順にバウロッカー、キャビン、コックピット、リヤロッカー及びモーターウエルを配し、長さ約2.26メートル幅約1.84メートルのコックピットの四隅に直径4センチメートルの排水口を備えたほか、船底にたまったビルジは、船首部から船尾部に向けて流れ、船尾端下部中央に設けたドレンプラグを取り外して排出するようになっていた。 ところで、A受審人は、昭和57年5月に友人とともに本船を購入したのち、船体及び機関の管理にあたりながら、毎年6月から12月にかけて1箇月に2回ないし3回の割合で本船に乗り組み、長崎県西彼杵郡松島付近で漁釣りを行っていたが、コックピットに海水が侵入するなどの問題を生じていなかったので大丈夫と思い、ドレンプラグを取り外すなど船底のビルジを点検することなく放置していたところから、いつしか船底に多量のビルジが滞留し、浮力が著しく減少していることに気付かないままであった。 こうして本船は、A受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、船首0.46メートル船尾0.36メートルの喫水をもって、平成9年10月12日06時50分長崎県西彼杵郡西海町七ツ釜を発し、松島南方沖合の釣り場に向かった。 A受審人は、1時間半ばかり松島の北方沖合で釣りをしたが釣ったいとよりの形が小さかったので、更に形の大きないとよりを釣ろうとし、釣り場を適宜変更しながら釣りを続け、11時30分頭島南灯台から271度(真方位、以下同じ。)1,900メートルの地点の釣り場に至り、船尾から直径約3メートルのパラシュート型アンカーを投入し、直径約15ミリメートルの化学繊維製アンカーロープを15メートルばかり繰り出して船尾左舷側のクリートに係止し、船首をほぼ160度方向に向けた状態で再び釣りを始めた。 ブラザーは、折から強まった北風の風波を左舷後方から受けながら漂泊しているうち、船底に滞留したビルジが徐々に右舷船尾部に集まって右舷方への傾斜が増大し、12時25分ごろA受審人が、コックピット右舷後部の排水口から、海水がわずかに侵入し始めたのを認めたものの、一瞥(べつ)しただけで気に留めないまま釣りを続行中、更に右舷傾斜が大きくなり、右舷側後部排水口を中心としてコックピットの約4分の1に浸水し、全員左舷側に移動したが、効なく、同時44分ごろから海水が右舷側のブルワークを越えて流入するようになり、12時45分前示漂泊地点において、復原力を喪失して右舷側に転覆した。 当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、海上には波高約1.5メートルの風波があった。 転覆の結果、船外機及び電気系統が濡損した。また、全員海中に投げ出されたが、付近にいた船に救助された。
(原因) 本件転覆は、船底のビルジの点検が不十分で、復原力が著しく減少したまま発航したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、船体及び機関の管理にあたる場合、船底に多量のビルジがたまったまま放置することのないよう、同ビルジの点検を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、コックピットに海水が侵入するなどの問題を生じていなかったところから大丈夫と思い、同ビルジの点検を行わなかった職務上の過失により、松島南か沖合で漂泊して釣りをしていたところ、コックピットの排水口から海水の侵入を招いて転覆し、船外機などに濡損を生じさせるに至った。 |