日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年長審第78号
    件名
漁船第二十八鱸穂丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成10年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、原清澄、保田稔
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:第二十八鱸穂丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
機関及び航海機器などに濡損

    原因
荒天避難の措置不適切

    主文
本件転覆は、荒天避難の措置がとられなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月18日12時20分
早崎瀬戸東口
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八鱸穂丸
総トン数 4.9トン
登録長 11.98メートル
幅 2.73メートル
深さ 0.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 279キロワット
3 事実の経過
第二十八鱸穂丸(以下「鱸穂丸」という。)は、昭和63年11月に一本釣り漁船として竣工した一層甲板型のFRP製漁船であったが、平成6年3月にBの所有となり、専ら熊本県牧島漁港と長崎県島原港間の活魚運搬船として使用されていた。
鱸穂丸は、船体中央部から船尾方約3.8メートルの甲板上に操舵室を、同室前方の前部甲板下に1個の船倉と3個の魚倉を、同室後方の後部甲板下に1個の魚倉と5個の船倉を、同室直下に機関室をそれぞれ設け、各魚倉内の船首側に長さ約1.25メートル内径約6.5センチメートル(以下「センチ」という。)の先端部を斜めに切断した塩化ビニール製パイプ各2本を船底部に貫通させて船外に出し、片方のパイプは切り口を船首方に向けて海水吸入管とし、他方のパイプは切り口を船尾方に向けて海水排出管として魚倉内の海水循環を行っていた。また、甲板全周に甲板上高さ約60センチのブルワークを巡らし、同ブルワークの下端に長さ約20センチ幅約2センチの放水口を約1メートル間隔で片舷につき9箇所ずつ設け、甲板上に打ち込んだ海水を船外に排出するようにしていた。
各倉口は、その周囲に高さ約15センチのハッチーコーミングが設けられ、FRP製のさぶたによって閉鎖できるようになっており、さらに、倉口の左右両端に2個のリングが取り付けられ、海水の打ち込みなどでさぶたが浮上して外れることのないようリングにロープを通してさぶたを固縛できるようになっていた。
こうして、鱸穂丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、前部甲板下の魚倉にたいの活魚700匹を入れ、船首1.00メートル船尾0.52メートルの喫水をもって、平成8年3月18日11時00分牧島漁港を発し、島原港に向かった。
このころ、発達した低気圧が北海道東方海上にあり、中国大陸には高気圧が停滞して九州付近が気圧の谷となっており、同月17日11時00分熊本地方気象台が県下全域に強風注意報を、天草地方に波浪注意報をそれぞれ出し、翌18日10時10分天草地方に波浪注意報を継続して出していたが、A受審人は、このことを知らずに発航時海上が穏やかであったので、各魚倉のさぶたにロープをかけないまま前示のとおり発航した。
発航後、A受審人は、横島瀬戸を経て本渡瀬戸に入り、11時59分本渡港防砂堤灯台から090度(真方位、以下同じ。)20メートルの地点で、針路を011度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの北北東風と潮流とにより、7度ばかり左方に圧流されながら14.0ノットの対地速力で天草下島北東岸沖合を手動操舵で北上した。
ところで、A受審人は、牧島漁港と島原港間の航海に2年ほど従事し、天草下島北東岸沖合から早崎瀬戸東口付近を週に2ないし3回航行していたところから、当時、早崎瀬戸の潮流が西流のほぼ最強時に当たるので、自船の周辺では潮流が北向きとなり、潮流が速い所で逆風が吹くと潮波が発生することを十分に承知していた。
定針後、A受審人は、北北東風と波浪とを右舷船首方から受けるようになり、その後次第に波が高まり、縦揺れを繰り返しては時々船首をたたき、海水が甲板上に打ち込む状況となったものの、原針路、原速力を保ったまま進行した。
12時09分ごろA受審人は、鬼池港防波堤灯台から156度3.1海里の地点に達したとき、北寄りの風が強まり、潮波の発生により波浪が更に高くなり、甲板上への海水の打ち込み量が増大して甲板上に海水が滞留し始め、船体が左舷側に傾斜したまま戻らなくなったのを認めたが、目的地まで遠くなかったうえ、これまで何度も潮波の中を航行した経験があったところから、このままなんとか航行できるものと思い、速やかに風下に転針して最寄りの泊地に向かうなどの荒天避難の措置をとることなく、左舷側に傾斜した状態のまま続航した。
その後、鱸穂丸は甲板上に打ち込んだ海水により、前部甲板のさぶたが外れ、たいが1ないし2匹甲板上に流出したので、A受審人が甲板員に救命胴衣を着用させ、甲板上に流出したたいを魚倉に入れてさぶたを元に戻す作業を行わせながら進行中、突然右舷側から大波を受け、大傾斜を生じて復原力を失い、12時20分鬼池港防波堤灯台から101度1.5海里の地点において、左舷側に転覆した。
当時、天候は曇で、風力5の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、波浪注意報が出されており、海上には高さ約3メートルの波があった。
転覆の結果、鱸穂丸は機関及び航海機器などに濡(ぬれ)損を生じたが、のち修理された。
また、A受審人と甲板員の2人は付近の漁船によって救助された。

(原因)
本件転覆は、波浪注意報が発表されている状況下、熊本県天草下島北東岸沖合を長崎県島原港に向けて北上中、潮波の発生により、高まった波浪が右舷船首方から甲板上に打ち込み、海水が甲板上に滞留して船体が左舷側に傾斜したまま戻らなくなった際、荒天避難の措置がとられず、左舷側に傾斜した状態のまま航行し、右舷側から大波を受けて大傾斜を生じ、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、波浪注意報が発表されている状況下、熊本県天草下島北東岸沖合を長崎県島原港に向けて北上中、潮波の発生により、波浪が更に高くなり、甲板上への海水の打ち込み量が増大して海水が甲板上に滞留し始め、船体が左舷側に傾斜したまま戻らなくなったのを認めた場合、速やかに最寄りの泊地に向かうなどの荒天避難の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、目的地まで近いうえ、これまで何度も潮波の中を航行した経験があったところから、このままなんとか航行できるものと思い、荒天避難の措置をとらなかった職務上の過失により、左舷側に傾斜した状態のまま航行し、大波を右舷側から受けて大傾斜を生じ、復原力を喪失して転覆を招き、機関及び航海機器などに濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION