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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年8月1日15時10分 神奈川県相模川河口 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートモナミ? 全長 6.20メートル 登録長 5.70メートル 機関の種類
電気点火機関 出力 66キロワット 3 事実の経過 モナミ?は、船外機1基を装備したFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人3人を乗せ、神奈川県江ノ島でのレジャーの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メールの喫水をもって、平成8年8月1日11時00分ごろ同県相模川河口から約2,000メートル上流にあるマリーナを発し、同県片瀬漁港に向かった。 ところで、相模湾は、南向きに開いて外洋に面し、同湾にそそぐ相模川の河口水域では堆積した土砂で水深が浅くなって、等深線が沖合に向かって舌状に張り出しており、相模湾に進入した波浪は、同水域に達して波高が著しく増大し、不規則な磯波が発生しやすい水域となっていた。このため、河口の両岸には、それぞれ南北方向に導流提が築造され、その間の水路幅が約80メートルで、両導流提の外側には消波ブロックが設置されていた。 A受審人は、水上オートバイやクルーザーなど対河口水域を何度か航行した経験があり、沖合からの風浪があるときには、同水域で磯波が発生しやすいことを知っていたので、発航前の同日08時テレビで気象情報を入手して、警報や注意報が発表されていないことを確認し、また、10時ごろマリーナに向かう車中からも同水域での波浪が高くないことを確認していた。 こうして、A受審人は、自ら操船しで相模川を下り、導流提間の水路を通過して沖合に出たところ、海上は比較的平穏であったので、茅ヶ崎海岸から約1,000メートル沖合を海岸線沿いに東行し、同海岸と姥ケ島の間を通過して12時00分ごろ片瀬漁港に到着し、モナミ?を係留して江ノ島に上陸した。 A受審人は、全員に救命胴衣を着用させ、14時00分片瀬漁港を発進し、定係地に向けて帰途につき、同乗者は椅子に腰を掛け、自らは操舵装置の後方に立って操船に当たり、沖合に出たころから南西の風が次第に強くなり、往路に航行した海岸線付近では磯波が発生して海面が白くなっていたことから、姥ケ島の南方沖合を航行した方が安全であると判断して、同島の南方沖合を大きく迂回する進路とし、南西方向からの風浪を左舷船首に受けながら5.5ノットの対地速力で、手動操舵によって進行中、14時35分ごろ姥ケ島の南方約1,500メートルの地点を通過したころから南西の風浪が一段と強くなったのを知った。 14時50分ごろA受審人は、平塚灯台から144度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点において、導流提間の水路に向けるため風浪に注意しながらゆっくりと右転を始め、15時07分同灯台から162度1,950メートルの地点に達して、同水路の右側に向く357度の針路に定めたとき、左舷後方から風浪を受けるようになり、船体が右舷側に10ないし15度傾斜し、船首も右に振られるようになったので、追い波を乗り切るために10.8ノットの対地速力に増速して進行した。 A受審人は、河口水域に磯波が発生しているのを認め、そのまま同水域に進入すれば、これを受けて転覆するおそれがあったが、磯波の合間を進行すれば大丈夫と思い、同乗者の仕事の予定を考慮して帰航を急ぐあまり、片瀬漁港に引き返して磯波が治まるまで一時避難するなど、同水域への進入を中止する措置をとることなく続航し、15時10分平塚灯台から144度950メートルの地点に至って、突然左舷後方から波高約3メートルの磯波を受けて船首が大きく右に振れ、続いて右舷側から更に大きな磯波を受けて船体が大きく傾斜し、復原力を喪失して右舷側に転覆した。 当時、天候は晴で風力4の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、相模川河口付近では、波高約3メートルの磯波が発生していた。 転覆の結果、海中に投げ出されたA受審人ら4人は、漂流していたところを救助に駆けつけた地元のプレジャーボートに収容され、モナミ?はこその後1回転して復原し、相模川右岸まで曳航され、船首部などに損傷を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件転覆は、神奈川県相模川河口水域において、レジャーを終えて同川上流の定係地に向け帰航中、磯波に対する配慮が不十分で、一時避難することなく磯波の発生している水域に進入し、これを受けて船体が大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、神奈川県相模川河口水域において、レジャーを終えて同県片瀬魚港から同川上流の定係地に向け帰航中、同水域に磯波が発生しているのを認めた場合、同水域に進入するとこれを受けて転覆するおそれがあったから、同漁港に引き返して磯波が治まるまで一時避難するなど、同水域への進入を中止すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、磯波の合間を進行すれば大丈夫と思い、同乗者の仕事の予定を考慮して帰航を急ぐあまり、同水域への進入を中止しなかった職務上の過失により、磯波を受けて船体が傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、船首部などに損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |