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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月14日05時00分 茨城県平潟港 2 船舶の要目 船種船名
油送船第六偕進丸 総トン数 19.08トン 全長 22.72メートル 幅
3.85メートル 深さ 1.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
40キロワット 3 事実の経過 第六偕進丸は、昭和44年1月愛媛県新居浜市において進水し、同48年3月からA社が所有するようになった、専ら同県平潟港内で漁船の燃料補給用に使用されている船齢29年の平甲板型鋼製油送船で、船首端から17.2メートルの位置に船橋前壁があり、その甲板下後方が機関室になっていて、同室前側のコファーダムと前部のフォアピークタンク(以下「FPT」という。)との間に、1番、2番及び3番両舷各カーゴオイルタンク(以下「COT」という。)が配置されていた。各タンク容積は、FPTが約9立方メートル、1番及び2番各COTがそれぞれ約25立方メートル、3番右舷及び同左舷各COTがそれぞれ約15立方メートルであった。 平潟港は、鵜ノ子岬南側の天然の入江泊地に外郭施設の伸長、用地の造成など港湾整備事業が進捗(ちょく)して外港が整備され、同岬から東方に延びる北防波堤とその南に造成地から北方に延びる東防波堤とで港口が形成され、平潟港南防波堤灯台(以下「平潟灯台」という。)の西南西方400メートルのところに北防波堤から南南東に延びる内防波堤があり、更に同防波堤から320メートル港奥の北角に燃料油積地(以下「指定積地」という。)があった。 本船の運航形態は、指定積地で燃料油を積み込み、港内に停泊中の各漁船に給油するというもので、1箇月当たり15ないし16日の頻度で運航されており、1日2ないし3時間稼動するほかは内防波堤西側の定係地に無人のまま係留されていた。 A受審人は、昭和55年4月A社の職員となって本船の運航に従事し、定期的な入渠(きょ)検査に立ち会うなど保船整備も担当しており、これより先、昭和53年7月に繰り上げて定期検査を受けた際、船体両舷外板の喫水線付近に全般的な腐食が発生していて、防食に注意するよう指示があったことを知らないまま、同人が乗り組む以前からFPTにはロープ類が納められ、長年物入れとして使用されている状態で、また、同タンク内のチェンロッカーは存置していたが、錨は取り外された状態で運航を続け、その後、平成8年7月に上架して臨時検査を受けたが、その際、COTの内部掃除をし、同タンク内部に腐食を認めなかったことから、FPTも腐食の程度は大したことはあるまいと思い、同タンク内にロープ類を納めたまま内部点検をしなかったので、FPT内面に腐食が局部的に集中進展し、腐食亀裂から破孔が生じやすい状況になっていることに気付かなかった。 A受審人は、本船に1人で乗り組み、同9年5月13日09時40分定係地を発し、指定積地でA重油約60キロリットルを1番COTに24キロリットル、2番COTに24キロリットル及び3番COT両舷で12キロリットルずつに振り分けて積み込み、船首1.40メートル船尾1.50メートルの喫水で、12時00分定係地に戻り、ヘッドライン1本、スターンライン2本に加え、前後部にブレストライン各1本をとり、船首を真方位151度に向けて左舷係留し、作業を済ませた後、離船した。 こうして本船は平均喫水1.45メートル、乾舷約20センチメートル、毎センチメートル排水トン数約0.6トンの浮遊状態で係留中、FPT内部水線下の船首骨材溶接部に生じていた腐食亀裂が進展して外部に達する小破孔となって海水が同タンクに浸入し、ついには約9トンの重量が同タンクに加わり、約15センチメートル沈下するとともに、船首トリムが増大し、船首部甲板に海水が洗うようになって復原力を喪失し、翌14日05時00分ごろ右舷側に転覆した。 当時、天候は雨で風力2の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 A受審人は、自宅で休息中、付近に係留していた漁船の乗組員からの通報を県漁連経由で受け、事後の措置に当たった。 転覆の結果、積油が流失したが、まもなく回収され、船体はサルベージ船によって引き揚げられ、のち廃船処理された。
(原因) 本件転覆は、平潟港内において、漁船の給油業務に従事している船齢29年の第六偕進丸が、タンク内部の腐食状況についての点検整備が不十分で、積油をほぼ満載として小さい乾舷の状態で、無人のまま係留中、FPT内に生じていた腐食亀裂が進展して小破孔となり、同タンク内に浸水して船首トリムが増大し、沈下するとともに海水が甲板上を洗うこととなって復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、船齢29年の第六偕進丸の運航に従事し、FPT内にロープ類を収納し長年物入れとして使用している状態で、定期的に上架して点検整備を行う場合、同タンク内面の腐食状況を確認するために収納してあるロープ類を取り出して内部点検を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、COTの内部点検で腐食が認められなかったことから、FPT内部も腐食の程度は大したことはあるまいと思い、同タンクの内部検査を行わなかった職務上の過失により、FPTの溶接部に生じていた腐食亀裂が進展して外部に達する小破孔となり、同タンク内に浸水して転覆させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |