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1998年(平成10年)

平成9年那審第28号
    件名
漁船カズヒロ丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成10年3月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

井上卓、東晴二、長浜義昭
    理事官
供田仁男

    受審人
A 職名:カズヒロ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船体の右舷船尾に破口等

    原因
気象・海象(磯波)に対する配慮不十分

    主文
本件転覆は、高い磯波の発生に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月22日09時45分
沖縄県喜屋武漁港西方沖合ルカン礁
2 船舶の要目
船種船名 漁船カズヒロ丸
総トン数 2.57トン
全長 6.63メートル
幅 2.11メートル
深さ 0.84メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 7キロワット
3 事実の経過
カズヒロ丸は、雑漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を同乗させ、同受審人が浅礁で行う潜水による蛸(たこ)突き漁、友人2人が釣りをそれぞれ行う予定で、2組の釣り道具、潜水漁用の水中銃、ウエットスーツ等を積み込み、船首0.10メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、平成9年4月22日08時30分沖縄県喜屋武漁港を発し、機関を全速力前進にかけ8.5ノットの対地速力で、ルカン礁に向かった。
ところで、ルカン礁は、喜屋武漁港西方6.5海里の海中に孤立した、南北約1海里東西約0.7海里の楕円形をした卓状の干出さんご礁で、その外縁から200メートルばかり外側が数十メートルの水深まで急傾斜して落ち込んでおり、うねりによる高い磯波が発生しやすい地形となっていた。
A受審人は、西進するうち、波長の長い南東方からのうねりを左舷横後方に受けてローリングを繰り返す状況で、台風の影響と思ったが、危険を感じる程の揺れではなかったのでそのまま進行し、09時15分少し前、ルカン礁東側に近づいたところ、外縁付近に波高2メートルを越す高い磯波が生じているのを認め、同礁東側での漁をあきらめ、同礁西側の様子を見ることにし、同時15分ルカン礁灯台から120度(真方位、以下同じ。)1,250メートルばかりの地点で、機関を微速力に減じ3.6ノットの対地速力にするとともに、針路を北方に転じた。
A受審人は、ルガン礁外縁から300ないし500メートルの距離を保ちながら進行し、09時42分半同灯台から264度750メートルの地点に達したとき、依然として同礁外縁に時折うねりによる高い磯波が発生しているのを認め、高い磯波の発生する水域に進入すると転覆のおそれも感じたが、せっかくここまで来たのだから蛸突き漁を行おうと思い、高い磯波の発生に十分に配慮して水深5メートルばかりの浅礁で行う潜水による同漁を中止せず、針路をほぼ175度に定め、前示速力のままで同礁外縁に接近を始めた。
こうして、カズヒロ丸は、操縦ハンドルの後方に船横に渡した板の右舷側にA受審人が座って操縦し、友人1人が左舷側に座り、もう1人の友人が船尾右舷側の座席に座って左舷方の浅礁の蛸のいそうな場所を探しながら原針路で進行中、09時45分わずか前ルカン礁の外縁から約200メートル西側の水深約10メートルの水域に至り、機関を極微速力前進に操作したとき、右舷正横方向から波高約2メートルに高起した磯波を受け、一瞬のうちに左舷側に大傾斜して復原力を失い、09時45分ルカン礁灯台から242度800メートルばかりの地点において、左舷側に転覆した。
当時、小笠原群島硫黄島付近に台風1号があって、沖縄本島地方に対して前々日の20日夕刻に発表された波浪注意報が継続中で、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期にあたり、海上には南東方よりのやや高いうねりがあった。
転覆したカズヒロ丸は波によりさんご礁外縁よりも内側に運ばれるうち、浅礁に接触して船体の右舷船尾に破口等を生じ、A受審人は友人2人とともに海中に投げ出され、同礁上で救助を求めているところを、たまたま付近を飛行中の海上自衛隊のヘリコプターによって発見され、その通報で海上保安庁のヘリコプターにより救助され、カズヒロ丸は僚船によって喜屋武漁港に引き付けられ、後日修理された。

(原因)
本件転覆は、沖縄県喜屋武漁港西方沖合のルカン礁において漁を行うにあたり、うねりによる高い磯波の発生に対する配慮が不十分で、浅礁で行う潜水による蛸突き漁を中止せず、蛸のいそうな場所を探して同礁西側を南下中、右舷正横方向から高起した磯波を受け、左舷側に大傾斜したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県喜屋武漁港西方沖合のルカン礁において漁を行うにあたり、時折、同礁周辺にうねりによる高い磯波が発生しているのを認めた場合、高い磯波の発生する水域に進入すると転覆のおそれがあったのだから、うねりによる高い磯波の発生に十分に配慮して浅礁で行う潜水による蛸突き漁を中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、せっかくここまで来たのだから同漁を行おうと思い、高い磯波の発生に十分配慮しなかった職務上の過失により、浅礁で行う潜水による蛸突き漁を中止することなく、蛸のいそうな場所を探して同礁西側を南下中、右舷正横方向から高起した磯波を受け、左舷側に大傾斜して転覆し、浅礁に接触した船体の右舷船尾に破口等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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