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1998年(平成10年)

平成9年門審第34号
    件名
プレジャーボート波和丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成10年2月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

永松義人、杉?忠志、藤江哲三
    理事官
西村敏和

    受審人
A 職名:波和丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
機関などに濡損

    原因
操船・操機取扱不適切

    主文
本件転覆は、根掛かりした錨を、前進力により錨索を緊張させて外そうとするにあたり、主機回転数の確認が不十分で、過大な前進力をつけて錨が外れないまま錨索を横引きし、船体が大傾斜したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月12日15時30分
宮崎県油津港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート波和丸
登録長 8.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 37キロワット
3 事実の経過
波和丸は、最大搭載人員が6人に規定された長さ8.40メートル、幅1.60メートル、深さ0.70メートルの和船型FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を同乗させ、船首0.30メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成8年12月12日09時30分宮崎県油津港内の定係地を発し、同港口近くにある裸碆(はだかばえ)南東方1.5海里ばかりの釣り場に向かった。
ところで、波和丸は、主機としていすず自動車株式会社が製造したUMC240M型と称する、定格回転数毎分2,600(以下、回転数については毎分のものとする。)の4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関を装備し、船尾部に機関室囲壁を設け、その後端上部に主機燃料ハンドルとクラッチハンドルを備えていて、主機の増減速及びクラッチの嵌(かん)脱が行えるようになっていた。
A受審人は、友人に救命胴衣を着用させ、10時ごろ裸碆灯標から135度(真方位、以下同じ。)1.5海里の瀬に取り付き、船首から重量約12キログラムの鋼製四爪錨を投じ、直径12ミリメートルのナイロン製錨索を延出して錨泊し、3人で一本釣りを行ったが、釣果がなかったので12時ごろ揚錨して釣り場を移動し、同時15分ごろ魚群探知器により裸碆灯標から062度2海里の地点にあたる、水深約45メートルの多少起伏のある瀬に取り付き、船首から錨を投入し、錨索を100メートルばかり延出して錨泊したのち、再び一本釣りに従事した。
A受審人は、平素水深の深い場所で揚錨する際には、直径約50センチメートルの浮き玉に取り付けたステンレス製リングに錨索を通し、錨索を水深の3倍ほどまで延出して機関の回転数を徐々に上げ半速力前進にかけると、水の抵抗によって浮き玉が錨索を伝って錨に達し、浮力によって錨が海面まで浮上するのを見届けてから行きあしを止め錨索を手繰って揚収する方法をとっていた。
こうして、A受審人は、一本釣りを続けていたが、釣果が思わしくなかったので再度釣り場を移動するため揚錨することにし、15時25分ごろ機関を始動して錨索を約120メートルまで延出し、これを船首から後方1.5メートの船横中央部にあるたつに固縛し、機関を回転数350の微速力から徐々に増速して回転数1,200の半速力前進まで増速したが、錨が瀬に根掛かりして揚錨できず、3回ばかり試みたが船体が傾斜するばかりで揚錨できなかったので、クラッチを中立運転に戻し、錨索を切断して捨錨することにした。
A受審人は、友人2人に手伝わせて錨索を出来るだけ手繰り込み、右舷側からほぼ垂直に張った錨索をたつに固縛したのち、機関室にあるナイフを取りに船尾に戻ったとき、捨錨することが惜しくなり、錨索を縮めたので再度前進力で錨を外そうと思い立った。しかしながら、同人は、揚錨に手間取って先を急ぐ気持ちになっていたことから、主機回転数を確認しなかったので、回転数を半速力の1,200としたまま中立運転していることに気付かず、船首がほぼ180度を向いた状態でクラッチを前進に操作したところ、急激に過大な前進力がつき、錨が外れないまま錨索を横引きする状態となって船体が右舷側に大傾斜し、クラッチを中立に戻す余裕もなく海水が流入して復原力を喪失し、15時30分船首をほぼ225度に向け、前示錨泊地点で右舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近海上は平穏であった。
転覆の結果、波和丸は、機関などに濡損を生じたが、油津港に引き付けられ、A受審人等3人は、僚船に救助された。

(原因)
本件転覆は、宮崎県油津港東方沖合において、釣り場を移動するため揚錨中、根掛かりした錨を前進力により錨索を緊張させて外そうとする際、主機回転数の確認が不十分で、過大な前進力をつけて錨が外れないまま錨索を横引きし、船体が大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、宮崎県油津港東方沖合において、釣り場を移動するため揚錨中、根掛かりした錨を前進力により錨索を緊張させて外そうとする場合、過大な前進力をつけることのないよう、クラッチを操作するとき中立運転中の主機回転数を確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、揚錨に手間どり先を急ぐ気持ちになっていたことから、主機回転数を確かめないでクラッチを前進に操作した職務上の過失により、過大な前進力をつけて錨が外れないまま錨索を横引きし、船体を大傾斜させて転覆を招き、機関などに濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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