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1998年(平成10年)

平成8年仙審第92号
    件名
漁船第二十五号トド丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成10年2月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

釜谷奨一、半間俊士、大山繁樹
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第二十五号トド丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船体沈没

    原因
漁獲物の積載量に対する配慮不十分

    主文
本件転覆は、漁獲物の積載量に対する配慮不十分で、復原力が喪失したことによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成6年10月15日04時30分
岩手県トドヶ埼北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十五号トド丸
総トン数 19トン
登録長 15.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 140
3 事実の経過
第二十五号トド丸(以下「トド丸」という。)は、さんま棒受網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、氷約6トンを載せ、船首1.10メートル船尾2.40メートルの喫水をもって、平成6年10月14日14時30分岩手県山田港を発し、同県トドヶ埼の東方沖合9海里付近の漁場に向かった。
ところでトド丸は、登録長15.74メートル幅4.18メートル深さ1.55メートルの一層甲板船で、甲板上のほぼ中央に操舵室、その後方には隣接して賄室があり、操舵室の甲板下が機関室、その後方には船員室が隣接しており、操舵室前方の甲板下は、3区画の魚倉が設けられ、船首方から第1魚倉、第2魚倉及び第3魚倉の順にそれぞれ配置されていた。第2及び第3魚倉の開口部は長さ約1.1メートル幅が約1.0メートルで、第1魚倉はこれらより、わずか小型のもので、各魚倉の周囲には甲板上の高さが約35センチメートル(以下「センチ」という。)のハッチコーミングが設けられていて、これら各魚倉の甲板上の開口部は、ハッチコーミングの上部で縦方向に2枚の木製の蓋(ふた)によって閉鎖することができる構造になっていた。また、これら各魚倉内は漁獲物が倉内で横方向に流動するのを防止するため船首尾方向の仕切り板で仕切られ、第1魚倉は左舷側と右舷側に二分され、第2及び第3魚倉は左舷側と右舷側の中間に中央部を設けて三分されており、各仕切り板の最上部と甲板下の空間は約20センチの間隔があった。
他方、ブルワークは、甲板上約70センチの高さで、その下端には、片舷4個の放水口があり、各放水口の縦方向の長さは約50センチ高さは甲板面から約20センチで、それぞれの放水口の外舷には、ロケットカバーが設けられ航行中甲板上に滞留した海水は、これを通して船外に排出される構造になっていた。
A受審人及びB指定海難関係人は、トド丸が建造された昭和59年以来同船に乗り組み、操業を行っていたもので、同船に積載する漁獲量は平穏な海象状況では約18トン以下としていたものの、この状況下でも、停船時には、船体中央部において、海水が常時甲板上約3センチの高さまで上昇し、その結果、船体中央部の一部が海中に没する状況となっていたが、前進航行すると甲板上の海水は前記ロケットカバーを通して船外に排出されていたことから平素、無難に航行して現在に至っていた。
A受審人は、同月14日17時00分ごろ前示漁場に着いて、適宜、探索を行いながら操業に従事したが、この海域は、前日の13日サハリン南部に中心をもつ低気圧から延びた前線の影響で、強風、波浪注意報が発表され、翌14日08時30分には解除されてはいたものの、依然その余波で、北西方からの突風を伴う風力4の風と有義波高が約2メートルの風浪がある時化(しけ)模様の海面状態となっていた。
A受審人は、B指定海難関係人の操業指揮の下に、適宜、漁場を移動しながら第5回目の操業をトドヶ埼東南東方約9海里の地点で開始することにした。
ところが、操業を続けるにあたり、A受審人は、漁獲物の積載量に対する配慮が不十分で、当該海象状況において、海水が常時船体中央部の甲板上に滞留する状態となっていたものの、過去、幾度かこのような状態で航行したことがあったことから、今回も無難に航行できると思い、適切な積載量で中止することなく、操業に専念した。
こうして、A受審人は、翌15日04時00分少し前さんまを第1魚倉に3トン第2魚倉に6トン及び第3魚倉に10トン振り分けて積載し終えたところで操業を中止し、他の乗組員を甲板上の作業につけ、B指定海難関係人を操舵、操船に当たらせて漁場を発進することにした。
04時00分A受審人は、トドヶ埼灯台から069度(真方位、以下同じ。)9.5海里の地点に達したとき針路を287度に定めて操舵を自動とし、機関を7ノットの半速力前進にかけ、風浪を右舷船首方から受けて横揺れを伴いながら進行した。
発進後、間もなく、A受審人は、左舷方に約15度傾斜していた船体傾斜を修正するため、機関室に入り、左舷側燃料油タンクから右舷側へ移送し終え、ほぼ船体傾斜が直ったころ、いったん昇橋したものの、その後間もなく今度は右舷側に約15度傾斜したままとなり、復原力が減少した状況にあったが、このことに気付かなかった。
A受審人は、再度、船体傾斜を修正するため、機関室に赴き、修正作業に従事中、突然、波浪の衝撃を受けて船体が右舷側に大きく傾斜したのを知って驚き、作業を中断して慌てて昇橋したところ、傾斜中の右舷側甲板上一帯に多量の海水が滞留したのを認めたが、どうすることもできないでいるうち、引き続き大波を受けて船体は復原せず、04時30分トドヶ埼灯台から051度7海里の地点において右舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、海上には波高約2メートルの波があった。
転覆後、乗組員全員は海中に投げ出され、転覆した船底にはい上がっていたところ、夜明けになって付近を航行中の他船に発見され全員救助されたが、船体は、曳(えい)航の途中沈没した。

(原因)
本件転覆は、時化模様の岩手県トドヶ埼の北東方沖合において、さんま漁労に従事するにあたり、漁獲物の積載量に対する配慮不十分で、過載状態となり、復原力が喪失したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、時化模様の岩手県トドヶ埼の北東方沖合において、さんま漁労に従事する場合、過載状態となって復原力が喪失することのないよう、漁獲物の積載量に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。ところが同受審人は、過去、幾度かこのような積載量で航行したことがあったことから、今回も無難に航行できると思い、漁獲物の積載量に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、過載状態を防止することことができず、転覆を招き、他船により曳航の途中沈没して全損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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