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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月10日10時15分 沖縄県宜野湾港北西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 引船みつ丸
台船301光海号 総トン数 5.0トン 全長 11.0メートル 31.0メートル 幅
3.0メートル 14.0メートル 深さ 1.3メートル
2.0メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 117キロワット 船種船名
引船第十八みつ丸 総トン数 19.0トン 登録長 15.0メートル 幅
5.0メートル 深さ 1.9メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
882キロワット 3 事実の経過 みつ丸は、台船の曳航(えいこう)作業などに従事する鋼製引船兼作業船で、A受審人が単独で乗り組み、作業員1人を乗せ、台船301光海号(以下「台船」という。)を船尾に引き、船首0.8メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成9年5月10日09時30分沖縄県宜野湾港を発し、同県那覇港に向かった。 ところで、みつ丸は、昭和58年2月に進水した平甲板船で、甲板上の中央やや船首寄りに船橋、その後方にエンジンルーム・ケーシングがあり、同ケーシング上には機関室用スカイライトが備えられ、同ケーシングの後壁中央部で、船尾端から前方3.0メートル甲板上0.8メートルのところに、曳航用フックが設けられており、甲板下は、船首から順に船倉、機関室及び船倉となっていて、船内に通じる開口部は、甲板上の船橋両舷側及び同ケーシング後部左舷側に各1個の出入口のほか、甲板上に船首尾船倉の倉口が各1個設けられていた。 台船は、甲板上が平たんで、甲板上には50トン吊りのクレーンを装備し、船首尾とも0.7メートルの等喫水であった。 また、曳航索は、径32ミリメートルのものを台船の船首両端からそれぞれ同じ長さとして25メートル延出し、各エンドアイをみつ丸の曳航用フックにとっていた。 こうして、A受審人は、操舵操船に当たり、09時55分宜野湾港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から293度(真方位、以下同じ。)2,220メートルの地点に達したとき、ともに曳航することとしていた僚船の第十八みつ丸(以下「十八号」という。)と会合し、同船が台船の船首中央部から径65ミリメートル長さ約38メートルの曳航索をその曳航用フックにとったので、自船の曳航索の右舷側を30メートル、左舷側を25メートルばかりにそれぞれ調整し直して、10時09分再び曳航を開始した。 A受審人は、十八号の左舷後方に8メートルばかりの間隔を開け、前後した並列の態勢であったことから、同船の推進器排水流による左舷方への圧流に抗するため常に右へ当て舵をとりながら、機関を回転数毎分1,400のほぼ全速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で進行し、10時13分少し前北防波堤灯台から295度2,690メートルの地点に達したとき、牧港第2号灯浮標を左舷方150メートルばかりに見てつけ回すことにし、徐々に左へ舵をとりながら左回頭を始めた。 10時14分少し過ぎA受審人は、北防波堤灯台から293.5度2,860メートルの地点に達したとき、針路を那覇港の浦添第1防波堤東端に向く228度に定め、そのころ引船列が直進状態となり、十八号の推進器排水流により再び左方へ圧流される状況になったが、同防波堤東端へ向く針路を維持することに気をとられ、右への当て舵をとるなどの十八号の推進器排水流に対する配慮を十分に行うことなく、そのまま続航した。 10時15分わずか前A受審人は、右舷方へ強く引かれる衝撃を感じて、大きく左舷方へ偏位していることを認め、右舷側の曳航索を放そうと、船橋を離れたところ、自船が台船の左舷正横に位置するようになり、曳航索により船体がほぼ正横方向に引かれる状態となって大きく右舷に傾斜したので、態勢を立て直そうと再び船橋へ戻ったが、どうすることもできず、10時15分北防波堤灯台から292度2,880メートルの地点において、みつ丸は、原針路のまま右舷側に転覆した。 当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。 転覆の結果、機関等に濡れ損を生じたが、岸壁に引きつけられ、のち修理された。また、A受審人は、頭頂部打撲傷及び同部裂傷を負った。
(原因) 本件転覆は、沖縄県宜野湾港北西方沖合において、他引船の左舷後方に位置し、同船とともに並列の態勢で台船を曳航する際、右への当て舵をとるなどの他引船の推進器排水流に対する配慮が不十分で、大きく左舷方に偏位し、曳航索によりほぼ正横方向に引かれる状態となったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、他引船の左舷後方に位置し、同船とともに並列の態勢で台船を曳航する場合、左舷方へ圧流されないよう、右への当て舵をとるなどの他引船の推進器排水流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方の目標へ向く針路を維持することに気をとられ、他引船の推進器排水流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、大きく左舷方へ偏位し、曳航索によりほぼ正横方向に引かれる状態となって転覆を招き、機関等に濡れ損を生じさせ、自身の頭頂部に打撲傷及び裂傷を負うに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |