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1998年(平成10年)

平成10年那審第3号
    件名
作業船第八松栄丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成10年6月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、小金沢重充
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:第八松栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
松栄丸は機関などに濡れ損

    原因
操船・操機不適切、安全対策(連絡措置)不十分

    主文
本件転覆は、進行中の引船列被引起重機船に接舷する際の安全対策が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月16日08時30分
沖縄県那覇港
2 船舶の要目
船種船名 作業船第八松栄丸 引船第十八みつ丸
総トン数 4.82トン 19トン
全長 12.80メートル 17.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 95キロワット 661キロワット
船種船名 起重機船第八尾鈴号
長さ 50メートル
幅 19メートル
深さ 3メートル
3 事実の経過
第八松栄丸(以下「松栄丸」という。)は、甲板上にコンプレッサー及び曳航(えいこう)索用ドラムを備えたFRP製潜水作業兼交通船で、松栄丸船舶所有者から借り受けたA株式会社により専ら港湾工事に従事するため運航されていたところ、那覇港新港地区の築造中の浦添第1防波堤における消波ブロック据付け作業を行う目的で、A受審人ほか2人が乗り組み、同作業の監督を務める株式会社B沖縄営業所主任を乗せ、船首0.50メートル船尾1.05メートルの喫水をもって、平成9年10月16日07時50分浦添市西洲1丁目の那覇港船だまり岸壁を発し、消波ブロックを積載した起重機船第八尾鈴号以下「起重機船」という。)及びこれを曳航する引船第十八みつ丸(以下「みつ丸」という。)の引船列のほか警戒船、交通船などと前後して作業現場に向かった。
ところで、起重機船は、船庫が箱型で、150トン型起重機を装備し、9個の消波ブロックを積載して喫水が船首、船尾ともに2.00メートルとなり、船首両端からみつ丸に2本の曳航索をとり、その長さをみつ丸船尾から起重機船船首まで40メートルとなるように調整していた。
また作業現場は、那覇港新港第1防波堤北灯台(以下「北灯台」という。)から345度(真方位、以下同じ。)700メートルの地点で、浦添第1防波堤外側であった。
A受審人は、発航時から操船に当たり、引船列を追尾するうち、08時08分北灯台から046度1,460メートルの地点に達し、浦添第1防波堤東端を左舷に航過したとき、北方からのうねりと北東方からの風波によりや荒れ模様となった状況のところ、傍らの作業監督が携帯電話で作業現場に差し掛かっていた引船列に対して、海上が荒れ模様なので作業を中止する旨を伝え、状況がよくなるまで浦添第1防波堤内側で待機するよう指示するのを聞いた。
A受審人は、そのまま作業現場を通過して浦添第1防波堤の工事部分西端を回り込む引船列に追尾して続航し、途中引船列を追い越し、08時20分北灯台から355度500メートルの地点で、引船例を待つため停止し、その後自船の南側を通過する引船列が、内防波堤(南)と浦添第1防波堤の中ほどとを経て沖へ敷設された海底ケーブルから離れた同防波堤東部分内側で投錨するものと思いながら、これを見守っていたところ、打合せのため起重機船に移乗したいと考えた作業監督から同船に付けるように指示された。
08時24分A受審人は、作業監督を起重機船に移乗させるため再び移動し始めたが、引船列の直進状態がしばらくは続くと思い、進行中の起重機船に付ける際の安全対策として、あらかじめみつ丸船長に作業監督を移乗させるため起重機船に接舷する旨を連絡するなどの措置を取らず、引船列が074度に向けて2.5ノットの対地速力で進行中のところ、機関を半速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で、起重機船船尾部左舷に船首部右舷を付けるつもりで087度に向け、起重機船に接近した。
08時26分A受審人は、北灯台から026度550メートルの地点で、起重機船船尾部左舷に近付き、その後機関と舵を適宜使用し、互いの防舷物を介して自船の船首部右舷を起重機船船尾部左舷に付け、同時26分半作業監督が自船船首部からやや高い起重機船甲板上に飛び移るのを見届けた。
そのころたまたま、みつ丸が、起重機船の船尾錨を投ずる準備として北東風を後方から受けるように引船列を南方に向けようと、大幅に右転し始めたが、A受審人は、みつ丸が起重機船の構造物や積載物の陰になっていたことから、そのことに気付かなかった。
こうして、A受審人は、みつ丸が起重機船船首部を強く右方に引き、それに伴って同船船尾部が左方に移動する状況のところ、作業監督が移乗した直後離れるため船尾をまず開けようと、機関を半速力前進にかけ、右舵一杯としたが、効果を認めず、これを繰り返すうち、起重機船が右転状態であることに気付いたが、離れることができず、松栄丸は、横付けの状態のまま、左方に移動する起重機船船尾部に押されて左舷に傾斜し始め、傾斜が増してやがて左舷ブルワークが水没し、08時30分北灯台から040度620メートルの地点において、復原力を喪失し、135度に向いて左舷に転覆した。
当時、天候は晴で、風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、浦添第1防波堤内側海面は穏やかであった。
転覆の結果、松栄丸は機関などに濡れ損を被り、起重機船により那覇港琉球造船岸壁に運ばれ、のち修理され、A受審人ほか2人は海中に投げ出されたが、いずれも警戒船に救助された。

(原因)
本件転覆は、沖縄県那覇港において、作業監督移乗の目的で進行中の引船列の被引起重機船船尾部左舷に接舷するにあたり、あらかじめ引船列引船船長にその旨を連絡する措置を取るなどの安全対策が不十分で、引船列引船船長への接舷についての連絡がなされないまま接舷が行われ、たまたま右回頭を始めた引船列の起重機船船尾部により左方に押されて大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、那覇港において、進行中の引船列の被引起重機船に作業監督を移乗させるため接舷する場合、その際の安全対策として、あらかじめ引船列引船船長にその旨連絡すべき注意義務があった。しかるに、同人は、引船列がしばらくは直進し続けると思い、引船船長にあらかじめ起重機船に接舷する旨を連絡しなかった職務上の過失により、接舷中たまたま右回頭を始めた引船列の起重機船船尾部により左方に押されて大傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、機関などに濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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