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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月28日13時30分 三重県志摩半島沖合 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボート大村号III 全長 7.18メートル 登録長 6.98メートル 全幅
2.18メートル 全深さ 0.90メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
53キロワット 3 事実の経過 大村号III(以下「大村号」という。)は、昭和55年に日産自動車株式会社が製造したFSA730NCR型と称する、船内機を備えたFRP製プレジャーボートで、船首部に船室、船体中央部にオープン型の操縦席があり、その下層は機関室となっていて、船尾甲板下には、機関室側から順に船尾管・船底弁などの点検口、燃料タンク及びいけすが設置され、更にその船尾側は縦方向に3区画に仕切られ、両舷側の区画はそれぞれ物入れで、中央部の区画(以下「中央区画」という。)には、船尾端に舵軸があって、その前方のプロペラ上部に当たる船尾船底外板にプロペラ点検口が設けられており、同区画の倉口は、縦40センチメートル(以下「センチ」という。)横60センチのFRP製の上蓋で閉鎖するようになっていた。 ところで、プロペラ点検口は、直径10センチの円形で、その中心位置が船尾端から約36センチ前方の船体中心線上にあり、直径12センチの真ちゅう製の円形窓枠を4個のリングナットで締め付けて水密にしてあり、厚さ8ミリメートルの透明アクリル仮がはめ込まれた直径8センチの丸窓を通してプロペラの状態を点検することができ、4個のリングナットを緩めると、窓枠ごと取り外すことができるようになっていた。 しかし、FSA730NCR型船には、プロペラ点検口が標準装備されていないことから、中央区画が他の区画に対して水密となっておらず、中央区画に海水が流入すると、船底の縦通材などの空所を伝って機関室や船首船室に流入するおそれがあった。 そのため、当初の所有者が、同点検口を特別注文して取り付けた際、その周囲に一辺が約30センチ、船底からの高さが約28センチの囲壁を設け、同点検口を開放しても海面が同囲壁の上縁から下方10センチのところとなり、同囲壁を越えて船内に海水が流入するのを防いでいた。 A受審人は、平成8年7月中古の大村号を購入し、その後、プロペラ点検口を開放してプロペラに絡んだ錨索を除去したこともあったので、囲壁を越えて中央区画に海水が流入すると、船底の空所を伝って機関室などに流入するおそれがあることを知っていた。 こうしてA受審人は、大村号に1人で乗り組み、友人2人を乗せ、釣りの目的で、船首0.35メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、平成8年9月28日07時00分三重県志摩郡志摩町越賀浦の定孫地を発し、志摩半島南方の鳴神島付近の釣り場に向かい、全員釣り用のライフジャケットを着用し、同釣り場に至って釣りを行ったが、釣果が上がらなかったので、志摩半島寄りの釣り場に移動することにし、11時ごろ和具港東防波堤灯台から262度(真方位、以下同じ。)1.4海里の水深約20メートルの地点に至り、重さ8キログラムの四つめ錨を投入し、直径16ミリメートルの合成繊維製の錨索を40メートル繰り出して船首のクリートに止め、船首を南東風に立てて錨泊し、釣りを再開した。 A受審人は、13時00分釣りを終えて帰途に就くことにし、自らは操縦席について操船に当たり、同乗者1人を船首に配置して揚錨作業に当たらせ、錨索を手繰って縮めているうち、錨索が緊張したため、同乗者が手振りで前進するように合図したので、クラッチを前進に入れてゆっくりと前進を始めたところ、間もなく錨索が弛んだものの、そのまま前進を続けたため錨索が船底に入ってプロペラに絡み、揚錨できなくなった。 A受審人は、同乗者に対してプロペラ点検口の窓越しにプロペラの状態を確認するよう指示し、同乗者が、中央区画の上蓋を開けて同点検口の窓越しに錨索がプロペラに絡んでいることを確認し、その旨の報告を受けた。 このころ、大村号は、錨索が船尾部に固定された錨泊状態となって、船尾が南東風に立ち、船尾方向から南南東の波浪を受けるようになり、錨索が短くなって緊張していたことから、船尾部は、波浪による海面の上昇に伴った上昇ができなくなって、囲壁の上縁が波頂の下に位置するようになり、このような状態で同点検口を開放すると、海面が上昇するたびに囲壁を越えて海水が中央区画に流入するおそれがあった。しかし、A受審人は、以前にも湾内の静穏なところで同点検口を開放してプロペラに絡んだ錨索を除去した経験があり、この程度0の波浪であれば、同点検口を開放した際に海水か少しくらい流入しても大丈夫と思い、同点検口の開放を中止せず、波浪が治まるのを待つなり、付近の漁船などに救助を依頼するなど、波浪の状況を配慮しなかった。 13時20分A受審人は、同乗者に対し、リングナットを緩めて同点検口を窓枠ごと外してプロペラに絡んだ錨索を除去するよう指示し、同乗者が同点検口を開放したところ、折からの波浪により海面が上昇するたびに、同点検口の囲壁を越えて海水が流入するようになり、急いで同点検口を閉鎖するよう指示したが、水圧のため閉鎖に手間取り、同点検口を閉鎖したころには既に海水がかなり流入して船尾部が沈下し、船尾外舷を越えて波浪が聾打ち込むようになり、やがて海面下となった船尾両舷の排水口からも海水が逆流して中央区画に流入し、同区画から船底の空所を伝って機関室や船首船室に流入して水船状態となり、13時30分前示錨泊地点において浮力を喪失して沈没した。 当時、天候は曇で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、南南東のうねりがあった。 沈没の結果、海中に投げ出されたA受審人ほか2人は、漂流していたところを通りかかった地元漁船に救助されたが大村号は、全損となった。
(原因) 本件沈没は、三重県志摩半島沖合において、波浪を船尾に受けてプロペラに絡んだ錨索を除去するに当たり、船尾船底部にあるプロペラ点検口を開放する際、波浪に対する配慮が不十分で、同点検口の周囲に設けた囲壁を超えて海水が船内に流入し、船尾部が沈下したところに船尾外舷を越えて波浪が打ち込み、船体が沈下して浮力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、三重県志摩半島沖合において、揚錨中にペロペラに錨索を絡め、波浪を船尾に受けた状態で船尾船底部にあるプロペラ点検口を開放して同錨索を除去しようとする場合、波浪により同点検口の周囲に設けた囲壁を越えて海水が流入するおそれがあったから、波浪が治まるのを待つなり、付近の漁船などに救助を依頼するなどして、同点検口の開放を中止すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、以前にも同点検口を開放してプロペラに絡んだ錨索を除去したことがあり、この程度の波浪であれば海水が少しくらい流入しても大丈夫と思い、同点検口の開放を中止しなかった職務上の過失により、同乗者に指示して同点検口を開放させたところ、囲壁を越えて海水が船内に流入し、船尾部が沈下したところに船尾外舷を越えて波浪が打ち込み、船体が沈下して浮力を喪失し、沈没して全損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |