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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月29日05時10分ごろ 佐賀県唐津港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十一千鳥丸 総トン数 266トン 登録長 46.30メートル 幅
8.10メートル 深さ 3.65メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
860キロワット 3 事実の経過 第三十一千鳥丸は、昭和59年9月に竣工した、大中型まき網漁業に従事する一層甲板船尾船橋機関室型の鋼製運搬船で、船尾部については、上甲板より約2.5メートル高い船尾甲板と、上甲板より約0.5メートル高い隆起甲板を有し、船尾甲板上に操舵室、無線室及び船員室からなる上部居住区を、船尾甲板と隆起甲板との間で、機関室の真上にあたるところに魚倉冷却用の機器類を収納した冷凍機室をそれぞれ設け、同室の後方に、船員室、浴室、食堂、娯楽室等からなる下部居住区のほか、操舵機室などを配置してあった。 また、機関室は、長さ約8.1メートルで、隆起甲板によって上下2段に分けられ、下段両舷側の下部前半に基線からの高さ約2メートルの燃料油及び潤骨油の各タンクを備え、下段中央に主機及び主機駆動の甲板機用油圧ポンプユニットを、右舷側のタンクの上に定格容量250キロボルトアンペアの発電機を直結駆動するとともに、クラッチを介して甲板機用油圧ポンプを駆動するディーゼル機関(以下「1号補機」という。)を、左舷側のタンクの上に定格容量100キロボルトアンペアの発電機を直結躯動するディーゼル機関(以下「2号補機」という。)を、2号補機の左舷斜め上方に雑用兼消防ポンプ(以下「GSポンプ」という。)を、後音隔壁前の左舷側に上部居住区用及び下部居住区用の各空調機冷却海水ポンプをそれぞれ配置したほか、2号補機の前部上方に機関室警報盤を設け、機関室のビルジが異常に増加した際には、機関室ビルジ警報装置が作動し、同盤上で警報を発するようになっていた。 ところで、GSポンプは、大東ポンプ工業株式会社製のMCQH-100型と称し、全揚程20メートルにおける吐出量が毎時65立方メートルの電動自吸式渦巻ポンプで、鋳鉄製のケーシングの下部に、ねじの呼び径16ミリメートル(以下「ミリ」という。)全長24ミリの銅製のドレン抜きプラグを取付けてあったが、同プラグがいつしか鉄製のものに取替えられていた。 一方、A受審人は、平成7年8月から本船の一等機関士として乗組んでいたところ、同8年3月機関長に昇進し、機器の保守整備にあたっていたものの、機関室のビルジはこまめに処理して同ビルジの異常増加を示す警報を発したことがなかったこともあって、機関室ビルジ警報装置を点検したことがなく、いつしか同装置のフロートスイッチが故障し、同ビルジが異常に増加しても警報を発しなくなったことに気付かないままであった。 こうして本船は、A受審人ほか7人が乗組み、船首約3.0メートル船尾約4.0メートルの喫水をもって、同9年6月25日福岡県博多港を発し、長崎県対馬周辺の漁場に至って、各居住区用の空調機を運転しながら操業を開始した。 同月27日A受審人は、上部居住区用の空調機冷却海水ポンプが原因不明のまま不調となったので、同ポンプの代りに、通常は短時間の甲板洗浄用ぐらいにしか使用しないGSポンプを使用することとして、同ポンプの運転を開始したが、吐出圧力が高くなり過ぎないよう、甲板洗浄用の弁を全開にして同圧力を約5キログラム毎平方センチメートルとしただけで、同ポンプの運転状態を十分に点検することなく、経年により、同ポンプのケーシングのドレン抜き穴とドレン抜きプラグとがいずれも腐食衰耗し、同プラグの付根から海氷がにじみ出ているのに気付かないまま、同ポンプの運転を続けた。 同月28日01時10分本船は、漁獲物約3トンを載せて佐賀県唐津港西港の水産埠頭(ふとう)に船首を北北西方に向けて右舷付けし、05時ごろから1号補機を運転して06時ごろ水揚げを終えたものの、台風接近のために出港を見合わせて翌朝に繰延べ、1号捕機直結駆動の発電機を運転したまま、魚倉の保冷や各居住区の冷房を続け、21時ごろA受審人が機関室内を一巡したのち、機関室を無人として乗組員全員が船内で就寝中、GSポンプのケーシングからドレン抜きプラグが脱落して海水が機関室に噴出し、やがて機関室のビルジが異常に増加するようになったが、警報を発しないで、翌29日06時10分ごろ唐津港西港大島防波堤灯台から真方位185度870メートルばかりの地点において、出港準備のために起床して機関室に入ったA受審人により、船体が10度ばかり右に傾いて主機の大部分が水没し、1号補機のフライホイールが海水をはね上げ、GSポンプのケーシングのドレン抜き穴から海水か噴出しているのが発見された。 当時、天候は曇で風力1の西北西風が吹き、潮侯は下げ潮の初期であった。 A受審人は、直ちに1号補機を停止し、GSポンプのケーシングのドレン抜き穴にウエスを詰めたあと、潜水夫に依頼して全船底弁を閉めた。 本船は、出港を中止し、タンクローリーを呼んで機関室の排水を行ったのち、僚船に引かれて北九州市の造船所に入り、濡(ぬれ)損した主機、1号補機、同機直結駆動の発電機、両甲板機用油圧ポンプユニット、電気配線等の修理を行ったほか、上部居住区用の空調機冷却海水ポンプを新替えし、GSポンプのケーシングのドレン抜きプラグをねじの直径約20ミリのステンレス鋼製に取替えた。
(原因) 本件遭難は、空調機冷却海水ポンプの代りにGSポンプを使用するにあたり、同ポンプの運転状態に対する点検が不十分で、同ポンプのケーシングのドレン抜き穴とドレン抜きプラグの腐食衰耗による、同プラグの付恨からの海水漏れが放置されていたことと、機関室ビルジ警報装置の点検が不十分で、同装置のフロートスイッチが故障したまま放置されていたため、機関室を無人としてGSポンプを運転中、同ポンプのケーシングからドレン抜きプラグが脱落し、機関室ビルジが異常に増加しても警報を発しないで、海水が機関室に浸入し続けたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、不調となった空調機冷却海水ポンプの代りにGSポンプを使用することとして、同ポンプの運転を開始した場合、同ポンプは、通常短時間の甲板洗浄用ぐらいにしか使用せず、空調機用として使用するならば、長時間の連続運転となって機関室無人中も運転するのであるから、長時間の運転中に支障をきたすことのないよう、同ポンプの運転状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は同ポンプの吐出圧力が高くなり過ぎないよう、甲板洗浄用の弁を全開にして同圧力を5キログラム毎平方センチメートルとしただけで、同ポンプの運転状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、機関室を無人として同ポンプを運転中、同ポンプのケーシングからドレン抜きプラグが脱落して海水が機関室に浸入する事態を招き、主機、1号補機、同機直結駆動め発電機、両甲板機用油圧ポンプユニット、電気配線に濡損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |