|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年11月27日12時32分 北海道落部漁港(東野地区) 2 船舶の要目 船種船名 引船第十八平成丸
台船エスナンバー3-200 総トン数 13トン
250トン 登録長 11.90メートル 全長 32.00メートル 幅
12.00メートル 深さ 250メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
387キロワット 3 事実の経過 第十八平成丸(以下「平成丸」という。)は、主として港湾工事用の台船の曳(えい)航に従事する鋼製引船で、平成8年11月27日の朝砕石約150トンを載せ、船首尾とも1.5メートルの喫水となった台船エスナンバー3-200(以下「第3清水丸」という。)を曳航して、北海道山越郡八雲町の落部漁港(東野地区)から、内浦湾に面した同町山越海岸の、落部港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から300度(真方位、以下同じ。)4.1海里のところで施工中の第2号離岸堤工事の現場に向かうこととなった。 A受審人は、同月26日夜のテレビで、翌27日の午後から海上は南東の風が強まって波が高まる旨の天気予報を入手していたが、同日07時00分発航に先立って関係者で打合せを行ったとき、風がほとんどなく天気がよかったことから、午前中は天気が大きく崩れることはないものと思い、工事現場担当者のB指定海難関係人に対し、第3清水丸に荒天時の曳航に十分耐え得る強度を持つワイヤロープの台付け索を準備するよう要請しなかった。 また、B指定海難関係人は、前示の打合せの際、同27日早朝テレビで聞いた天気予報から同日午後にかけて海上は南東の風が次第に強まり、波が高くなることを予想したが、午前中はなんとか曳航できるものと思い、A受審人に対し、荒天となったら引き返すよう指示したのみで、第3清水丸に荒天時の曳航に十分耐え得る強度を持っワイヤロープの台付け索を準備しなかった。 こうして、平成丸は、A受審人が1人で乗り組み、作業員6人を乗せた第3清水丸の船首部両舷側のボラードに化学繊維製の長さ約10メートルの曳航索の端に繋いだ同材質の長さ約13メートルの2本の台付け索を取って船尾に引き、船首1.0メートル船尾1.5メートの喫水をもって、同27日07時10分落部漁港(東野地区)を発航した。 A受審人は、その後次第に南東寄りの風波が強まり、工事現場付近に達したころには、波の高さが1.5メートルを超えるようになって作業ができない気象海象状況となっていたので、落部漁港(東野地区)に引き返すこととし、波浪の状況から平成丸の曳航索では短いと判断のうえ、これに代えて第3清水丸船首の左右のウインチドラムに係留索として巻かれていた直径42ミリメートルの化学繊維製ロープを、同船の船首部両舷側のフェアリーダを介してそれぞれ約40メートルの長さに繰り出させ、これを平成丸の曳航用フックに重ねて掛け、09時ごろ北防波堤灯台から300度4.1海里の地点で折り返し、帰途に就いた。 11時55分A受審人は、八雲町野田生沖合の北防波堤灯台から317度2.7海里の地点において、針路を135度に定め、機関を毎分回転数1,000にかけて0,6ノットの曳航速力で、南東寄りの強風浪を船首方から受けて手動操舵により進行した。 12時30分A受審人は、落部漁港(東野地区)の沖合に達し、同漁港北防波堤先端から170メートル西方の、北防波堤から315度2.4海里の地点に達したとき、波はかなり高くなっていたものの、港内に入航できるものと判断し、入航するため135度を向首したまま機関の回転数を毎分1,300に上げた直後、左舷側の曳航索が第3清水丸のフェアリーダのところで摩擦により切断し、その後入航を中断して右舷側の曳航索のみで沖出しを試みたところ、12時32分同曳航索も同様に切れ、第3清水丸が風下側に漂流を始めた。 当時、天候は曇で風力6の南東風が吹き、波高は3メートルであった。 その後、平成丸は、第3清水丸の救助作業中、13時ごろ浅所に乗り揚げ、操舵装置が故障したものの、機関を操作して自力で落部漁港(東野地区)に入航したが、第3清水丸は、作業員が乗ったまま同漁港北西方の沿岸近くまで漂流したところを付近の漁船などの支援により、15時ごろ北防波堤灯台から311度2.9海里の地点の砂浜に、陸岸に取った同船の船尾側係留索をウインチで、巻いて擱坐(かくざ)し、作業員全員救助された。
(原因) 本件遭難は、北海道山越郡八雲町の山越海岸沖合の工事現場に、砕石を積載した台船を曳航するにあたり、荒天が予想された際、荒天時の曳航に備える措置が不十分で、十分な強度を持つ曳航用ワイヤロープの台付け索が準備されず、荒天下の海上を台船の係留索を使用して曳航中、同係留索が摩擦により切断したことによって発生したものである。 工事現場担当者が、曳航中に荒天が予想された際台船側に荒天時の曳航に十分耐え得る強度を持つワイヤロープの台付け索を準備しなかったことは本件発生の原因となる。
(受審人等の所為) A受審人は、北海道山越八雲町の山越海岸工事現場に、砕石を積載した第3清水丸を曳航する場合、テレビの天気となることが予想できたのであるから、荒天に遭遇しても曳航索が摩擦で切断することのないよう、工事現場担当者に対し、荒天時の曳航に十分耐え得る強度を持つワイヤロープの台付け索を準備するよう要請すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、発航前の天候状況から午前中に天気か大きく崩れることはないと思い、ワイヤロープの台付け索を準備するよう要請しなかった職務上の過失により、航行中荒天に遭遇して引き返す際、第3清水丸側の係留索を曳航索に使用して曳航中、同係留索が摩擦で切断する事態を招き、第3清水丸を漂流させ、平成丸を乗り揚げさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、荒天が予想されるなか、第3清水丸を工事現場へ曳航させる際、荒天時の曳航に十分耐え得る強度のワイヤロープの台付け索を準備しなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |