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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年3月12日23時10分ごろ 長崎県奈良尾港南方沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第三十八幸勢丸 総トン数 199トン 登録長 53.10メートル 幅
9.30メートル 深さ 5.55メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
551キロワット 3 事実の経過 第三十八幸勢丸は、昭和59年4月に進水し、航行区域を沿海区域とする二層甲板船尾船橋機関室型の鋼製貨物船で、船首隔壁と機関室前部隔壁との間に長さ36メートルの船倉を有し、船倉の下方の二重底を1番から3番までのバラストタンクで区切ったうえ、3番バラストタンクの後部中央に燃料油タンクを備え、機関室上部後方の中甲板上に、船尾の操舵機室に通ずる甲板用倉庫を設け、ばら積み貨物の輸送に従事していたところ、平成3年5月A有限会社の所有となり、A受審人ほか2人が乗組むようになった。 機関室は、長さが7.60メートルで、基線からの高さが3.35メートルの中甲板によって、上下2段に分けられ、下段については、前部中央に主機を、前部左舷側にディーゼル機関直結駆動の発電機(以下「1号発電機」という。)を、主機の左舷側に消防兼雑用ポンプを、主機の右舷側にビルジ・バラストポンプを、前部隔壁沿いに燃料油タンクの測深管をそれぞれ配置し、船底からの高さ約80センチメートル(以下「センチ」という。)のところに床板を敷き、両ポンプとも、全揚程20メートルにおける吐出量が毎時60立方メートルの電動渦巻きポンプであって、海水吸入管の直径を約7.6センチとし、船底の海水吸入弁から単式筒型の水こし器を経て海水を吸入するようになっており、各ポンプの後方床板の下に同こし器を設置してあった。なお、機関室の上段については、前部隔壁中央寄りに主機ベルト駆動の発電機(以下「2号発電機」という。)を、前部左舷側に主配電盤をそれぞれ備えていた。 ところで、A受審人は、五級海技士(航海)の免状も受有することから、雇入契約上の船長となることがあるものの、一貫して機関長職を執り、バラストタンクの張・排水時にば消防兼雑用ポンプとビルジ・バラストポンプを同時に運転し、ほぼ半年に1回両ポンプの水こし器の開放掃除を行うなどしていたが、船底弁の取扱いに関しては、停泊中に船内が無人となる場合や、海水管系の整備を行う場合を除き、開閉の手間を省くためにすべて開けたままとしていた。 越えて平成10年3月10日A受審人は、熊本県長洲港において鋼材の揚荷役中、両ポンプの水こし器を開放し、薄板の円筒に多数の小穴が開いたこし筒を掃除したり、さびて固くなったねじの呼び径22ミリメートル全長約80センチのふた押えボルトをふた押え金具に手で軽くねじ込めるように整備したりして復旧したが、船底の海水吸入弁を開けてふたからの水漏れを認めなかったので大丈夫と思い、同ボルトの締付け状態を十分に点検することなく、消防兼雑用ポンプの水こし器(以下「こし器」という。)については、同ボルトが締付け不足であることに気付かなかった。 こうして本船は、A受審人ほか2人が乗組み、鋼材の残りを福岡県三池港で揚げたのち、2番バラストタンクに海水を100トンばかり張込み、同日16時40分同港を発し、長崎県福江港に向かう航行の途、荒天に遭遇し、船体の動揺や振動でこし器のふた押えボルトが緩んできたものの、ふた押え金具が外れるまでには至らない状態で、翌11日02時50分福江港に入港し、すべての船底弁を閉め、乗組員全員がそれぞれ自宅に帰った。 明けて12日本船は、08時ごろ帰船したA受審人が全船底弁を開けて1号発電機を始動し、消防兼雑用ポンプとビルジ・バラストポンプを使用して2番バラストタンクを空にしたのち、両ポンプを休止し、耐火煉瓦(れんが)の原料である蝋石(ろう)680トンを積み、機関室と甲板用倉庫間の扉、同倉庫と操舵機室間の扉及び燃料油タンク測深管のふたをいずれも開放したまま、船首2.80メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、岡山県片上港へ向け21時50分福江港を発し、A受審人が発電機を1号から2号に切替え、機関室を一巡して自室に戻り、機関室を無人として船長が単独で船橋当直にあたり、約10ノットの全速力前進で航行中、こし器のふた押えボルトがさらに緩み、ふたがふた押え金具とともに外れて海水が機関室に浸入するようになり、23時10分ごろ五島棹埼灯台から南南西方0.5海里ばかりの地点において、主機が海水につかって停止するとともに、2号発電機も停止し、船内の灯火が消えた。 当時、天侯は晴で風力2の北西風が吹き、海上は隠やかであった。 A受審人は、01時からの船橋当直に備えて自室で就寝中、主機の停止に気付いて起床し、懐中電灯を手にして機関室内を見たところ、床板の上方1メートルぐらいまで浸水しており、1号発電機を運転することも浸水箇所を調べることも不能と判断し、船長に事態を報告した。 本船は、23時15分長崎海上保安部に救助を要請し、総員退船準備をしていたところ、翌13日01時00分巡視艇が到着して排水を開始したものの、浸水量に対して排水量が追付かず、乗組員全員が巡視艇に移乗したあと、03時30分来援しだ巡視船による排水が開始され、機関室のみならず、甲板用倉庫及び操舵機室にな浸入しだ海水の水位が徐々に低下するようになり、次いで来援したサルベージ会社の引船により、12時45分排水作業を終えて佐世保港に曳航(えいこう)され、後日、濡れ損を生じた主機、両発電機、主配電盤、操舵機等の機器修理のほか、浸水した燃料油タンクの清掃などを行った。
(原因) 本件遭難は、消防兼雑用ポンプ用水こし器開放掃除後の点検が不十分で、同こし器のふた押えボルトが締付け不足のまま放置されていたことと、船底弁の取扱いが不適切で、休止中の同ポンプの海水吸入弁が開けられたままとなっていたこととにより、機関室を無人として航行中、同こし器のふたが外れ、海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、熊本県長州港において停泊中、消防兼雑用ポンプの水こし器を開放掃除して復旧した場合、同こし器のふた押えボルトを締付け不足のまま放置することのないよう、同ボルトの締付け状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船底の同ポンプ海水弁を開けて同こし器からの水漏れを認めなかったので大丈夫と思い、同ボルトの締付け状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、同ボルトを締付け不足のまま放置し、航行中、船体の動揺や振動によって同ボルトが緩んでふたが外れる事態を招き、機関室はおろか、甲板用倉庫や操舵機室のほか二重底の燃料油タンクなどへも海水の浸入を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |