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1998年(平成10年)

平成9年門審第20号
    件名
作業船天山遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成10年10月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀、吉川進、岩渕三穂
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:天山船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船尾船底の塗装が一部剥離、他船の係留索が損傷

    原因
係留索の状況確認不十分

    主文
本件遭難は、係留索の状況確認が不十分で、同索が推進器翼に絡んだことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月2日15時15分
関門港白島区
2 船舶の要目
船種船名 作業船天山
総トン数 19トン
全長 13.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 808キロワット
3 事実の経過
天山は、2基2軸で舵2枚を備えた鋼製の押船兼引船で、A受審人ほか作業員2人が乗り組み、初めて大型油送船の綱取り作業を行うため、船首1.0メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成8年9月2日08時30分関門港若松区を発し、同港白島区の白島石油備蓄基地に向かった。
ところで、白島石油備蓄基地は、男島と女島からなる白島のうち、男島南東沿岸に建設され、大型油送船のシーバースを付設した洋上石油備蓄施設で、男島の南東沿岸を埋立て、その東岸890メートルに護岸工事を施して東護岸とし、同護岸の南北端から東方に長さ570メートルの南及び北防波堤を、並びに両防波堤東端を南北に結ぶ1,050メートルの東防波堤をそれぞれ築造し、これらの護岸と防波堤に囲まれた約60ヘクタールの長方形をなす海域内に、1隻あたり70万キロリットルの貯蔵能力を有する、長さ397.0メートル幅82.0メートル深さ25.4メートルの鋼製の箱型貯蔵船8隻を係留した、備蓄容量560万キロリットルの施設であった。また、東護岸の南側に長さ440メートルの弧状をした船溜(だま)り西防波堤を築造して内側を小型船船溜りとし、一方、同護岸の北端から北東方に長さ800メートルの配管橋を架設し、その先端に建造された3基のローディングアームと荷役関連施設に、ほぼ南北500メートルに渡り、大型船舶係留用ドルフィンとそれらを繋(つな)ぐ架橋からなるシーバースを構築し、大型船の係留は280,000重量トンまで可能で、同日の大型油送船コスモネプチューン(以下「コスモ」という。)が受入れ第一船として入港するところであった。
A受審人は、同日10時ごろ白島石油備蓄基地の小型船船溜りに到着し、同じ係留作業に従事する第18うろこ丸(以下「うろこ丸」という。)とともに、シーバースの係留作業担当者を交えてコスモの係留綱取り作業の打合せを行い、タグボートが同船を右舷着けでシーバースに押しつけている間に、天山が船首の綱取り作業を、うろこ丸が船尾の綱取り作業をそれぞれ行うこと、また、係留索は1本ずつ受け渡すことなどを確認した。
12時30分A受審人は、同船溜りを発してシーバースに至り、コスモの接岸を待って綱取り作業を始め、単独で天山の操船にあたるとともに、綱取り作業全般の指揮を執った。
A受審人は、船首に2名の作業員を配置し、コスモから巻き下ろされて来る係留索を受け取り、同索の先端から約8メートルのところを船首ビットに巻いて一旦細いロープで係止し、コスモに同索を延ばすように手で合図するとともに、両舷機を操作して至近のドルフィンまでは30メートルほど、末端のドルフィンまでは80メートルほどそれぞれ係留索を運搬し、ドルフィン上で待機する綱取り作業員から下ろされてくる、係留索引き込み用ロープに括(くく)り付けて渡し、同時に、船首ビットの係止ロープを解いて係留索を海上に放ち、同索がコスモに巻き取られて水面上に持ち上がったあと、再び同船に接近して次の係留索の巻き下ろしを待った。
こうしてA受審人は、順調に作業を進めて7本の係留索を取り終え、8本目を受け取ることとなったとき、コスモの係岸が予定時間よりも少し遅れているのが気になり、最俊の9本目もまとめて運搬しようと思い、船首の作業員に2本一緒に受け取るように指示を出し、同船にも合図をして係留索を順次下ろさせた。
A受審人は、2本の係留索が船首ビットに係止されたのを確認し、一度後方に引き下がったあと、両舷機を適宜操作して同索を運搬し、8本目をドルフィン上の綱取り作業員に渡していたところ、潮流で自船が少し南東方に流されドルフィンから2メートルばかり離れたので近づけようと思い、両舷機のクラッチを前進に入れようとした。このころ、9本目の係留索は、コスモの船首から海上に巻き出され、海中1メートルほどのところを浮遊して弧を描きながら天山の船首に達し、途中、同船の船尾右舷側あたりで船底に入り込んでいる状況であったが、A受審人は、同索の状況を十分に確認しなかったので、これに気が付かなかった。
A受審人は、運搬中の係留索の状況をよく確かめないまま、ドルフィンに近づけるため両舷機のクラッチを前進に入れたとき、天山は、15時15分白島石油備蓄シーバース灯から167度250メートルの地点において、係留索が右舷推進器翼に絡み、右舷機が停止した。
当時、天候は曇で風力4の西風が吹ま潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果、天山は、右舷機停止のままドルフィンに係留され、手配されたダイバーが絡んだ係留索を切断して解き放ったが、船尾船底の塗装が一部剥離し、コスモの係留索が損傷し、係留作業はうろこ丸か引き継いで終えた。

(原因)
本件遭難は、関門港白島区白島石油備蓄基地シーバースにおいて、大型油送船の係留作業中、運搬する係留索の状況確認が不十分で、同索が右舷船尾船底に入り込んだ状態のまま、機関を前進にかけ、右舷推進器翼に同索が絡んだことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、関門港白島区白島石油備蓄基地シーバースにおいて、大型油送船の係留作業中、運搬する係留索が右舷船尾船底に入り込んでいる状況を十分に確認しないまま、機関を前進にかけたことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、船体などの損傷が軽微で事故の影響が小さかったこと、及び事故後A受審人が再発防止に努めている点に徴し、同人の職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






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