|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月15日15時30分 新潟県粟島北方沖合 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートシーホーク 全長 7.75メートル 幅 2.57メートル 深さ
1.35メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 62キロワット 回転数
毎分3,700 3 事実の経過 シーホークは、最大搭載人員10人のFRP製プレジャーボートで、船体中央部からやや船首寄りに風防ガラスで囲まれた操縦席、その前部に船室及び後部に甲板がそれぞれ配置されており、主機及び逆転装置付スターンドライブ機構等から成る船内外機関並びに3枚翼プロペラを備え、プロペラ引上げ装置を装備していた。 プロペラは、プロペラピッチ450ミリメートル(以下「ミリ」という。)径360ミリのアルミニウム合金製で、6条の角形スプライン溝加工の黄銅製プシュがプロペラボスの中央部に圧入されていて、同ブシュがスターンドライブ機構のプロペラ軸に嵌合され、プロペラナット及び同ナットの回り止め座金(以下「回り止め座金」という。)により同軸に固定されていた。プロペラナットは、ねじの呼び径20ミリのステンレス鋼製ナットが円錐形のアルミニウム合金製プロペラキャップ(以下「キャップ」という。)の締付け接触面中央部にはめ込まれており、キャップの側面が同接触面を底辺として60度の角度で両端対称に切り取られ、キャップの中央部の半径方向に径6ミリの貫通孔が開けられていた一方、プロペラ軸は、ステンレス鋼製軸の先端から22.5ミリにわたってねじが切られ、プロペラのプシュとの嵌合部にスプラインが加工されていた。また、回り止め座金は、径60ミリ厚さ0.8ミリのステンレス鋼板で、内側の凹凸形の穴がプロペラ軸のスプラインにかみ合わせて嵌合され、外側がキャップの側面の切り取られた両端に沿わせて折り曲げられるようになっていた。 ところで、プロペラを取り付ける際の要領は、プロペラ軸のスプラインに耐水性グリースを塗布し、同軸にブシュ及び回り止め座金を嵌合してプロペラナットを手で取り付けてから、キャップの中央部の貫通孔に鋼棒を差し込んで仮締めし、次にパイプレンチで増締めして同ナットの締付けを十分に行ったのち、回り止め座金を折り曲げる手順であった。そして、回り止め座金の取付けについては、プロペラナットの締付けが緩まないよう、その内側の穴をプロペラ軸のスプラインにかみ合わせること及び外側をキャップの側面に沿わせて折り曲げることに留意する必要があった。 A受審人は、平成8年3月にシーホークを購入して魚釣りに使用し、同船に船長として乗り組み、船体や機関の保守にもあたっていたところ、海難救助訓練の目的で、越えて8月4日山形県加茂港の浮桟橋を離桟する際プロペラ翼が水面下のプレジャーボート用架台にたまたま接触して曲がったので、同港の船揚場に上架し、プロペラ、プロペラナット及び回り止め座金の各新品を購入して自ら交換することとした。 しかし、A受審人は、プロペラの交換にあたり、手順どおり取り付けたと思い、パイプレンチで増締めするなどしてプロペラナットの締付けを十分に行わず、更に回り止め座金を適切に折り曲げて取り付けなかったので、同ナットの締付けが航行中に緩むおそれのある状態のまま、作業を終えた。その後、同受審人は、毎週末の休日に日帰り運航を繰り返し、出航前にはその都度プロペラ周辺部を外観から目視するなどの点検を行っていたものの、プロペラナットの前示締付け状態に気付かなかった。 こうして、シーホークは、A受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、魚釣りの目的で、翌9月15日05時30分山形県鼠ヶ関(ねずがせき)港を発し、同時50分同港北西方沖合に達して魚釣りを開始し、その後粟島方面に南下して魚釣りを続け、13時30分粟島北方沖合の釣り場に至り、魚群を探索しながら主機回転数毎分1,500にかけて2.5ノットの対地速力で航行中、プロペラナットの締め付けが緩み、魚影を認めて後進にかけた際にプロペラが同ナット及び回り止め座金と共にプロペラ軸から脱落して行きあしが止まらず、15時30分粟島灯台から真方位028度3.3海里の地点において、同受審人がプロペラ引上げ装置を操作してプロペラ等が脱落していたのを発見した。 当時、天候は晴で風力2の西北西風が吹き、海上は穏やかであった。 その結果、航行不能となり、通信設備を備えていなかったことから、周囲の釣り船や海上保安部等に救助を求めることができないまま、翌朝、注意喚起のため、釣りざおに布を付けて振っているうち、付近を航行していた漁船がようやく気付いて陸上側と連絡を取り、来援した他の漁船により鼠ケ関港に曳航された。
(原因) 本件遭難は、プロペラの交換にあたり、プロペラナットの締付けが不十分であったこと及び同ナットの回り止め座金の取付けが不適切で、航行中、同ナットの締付けが緩み、プロペラが脱落したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、プロペラを交換する場合、プロペラナットの締付けが緩むとプロペラが脱落するおそれがあったから、パイプレンチで増締めするなどして同ナットの締付けを十分に行ったうえ、同ナットの回り止め座金を適切に折り曲げて取り付けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、手順どおり取り付けたと思い、プロペラナットの締付けを十分に行わず、更に同ナットの回り止め座金を適切に折り曲げて取り付けなかった職務上の過失により、航行中、同ナットの締付けの緩みを招き、プロペラを脱落させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |