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1998年(平成10年)

平成10年函審第45号
    件名
漁船第三十八祐幸丸遭難事件〔簡易〕

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成10年10月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕
    理事官
副理事官 堀川康基

    受審人
A 職名:第三十八祐幸丸漁労長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
左舷船尾外板に亀裂を伴う凹損

    原因
速力不適切、見張り不十分

    主文
本件遭難は、安全な速力とせず、見張りを十分に行わなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月25日09時05分
北海道根室海峡
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八祐幸丸
総トン数 9.7トン
全長 16.28メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
第三十八祐幸丸(以下「祐幸丸」という。)は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、すけとうたら刺し網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成10年2月25日06時00分北海道目梨郡羅臼港を発し、同港南東方沖合の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、同年1月7日からすけとうたら刺し網漁に従事していたところ、オホーツク海を南下した流氷が同月30日に国後島沿岸に達し、その後根室海峡を徐々に南下して羅臼港沖合の漁場が流氷に覆われるようになったことから、翌2月18日以降出漁を見合わせていた。ところが、同人は、同月25日になって羅臼港南東方の海域の流氷が少し開き、流氷帯のない海面も見られるようになったことから、同月17日に投入した刺し網を揚収するため、往復の航海は集団で行動するということで20隻ばかりの僚船と共に前示により出漁したものであった。
06時40分A受審人は、19トン型の鋼製の僚船に先導してもらって羅臼港南東方沖合6海里ばかりの漁場に到着し、揚収する刺し網の上方付近の海面を覆っていた板状の流氷帯を僚船に砕氷してもらったあと、07時40分羅臼側から国後島側に向かって長さ約900メートルの刺し網の揚収を開始した。
09時00分A受審人は、羅臼港第2南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から123度(真方位、以下同じ。)6.5海里の地点で刺し網の揚収を終え、集団で帰航することとして待機地点に向かうため、針路を333度に定め、前路の海上にはところどころに流氷が散在することや、船体か流氷によって破損の生じやすいFRP製であることを考慮のうえ、安全な速力とすることなく、ほぼ全速力の9.6ノットの対地速力とした。そして、同人は、船橋の見張り位置から正船首方の30メートルばかりが死角となっていたが、航行の支障となる流氷は遠方からでも視認できるものと思い、大部分が海面下にあってきわめて発見のしにくい流氷があることを考慮のうえ、船首部に見張員を配置するなどして船首方の見張りを十分に行うことなく、先導船を付けずに単独で船橋当直に当たり、船橋右舷側の椅子に座ったまま遠隔操舵で進行していたところ、同時05分少し前前路近くに流氷が存在したが、それに気付かずに流氷を避けないまま続航中、09時05分南防波堤灯台から118度5.7海里の地点において、流氷に左舷舷側が原針路、原速力のまま接触した。
当時、天候は晴で風力1の東北東風が吹き、海上は平穏であった。
A受審人は、舷側が流氷に接触したような音とともに行きあしが鈍るのを感じたが、そのまま待機地点に向かい、同地点で僚船が操業を終えるのを待ったあと、10時00分僚船の先導のもとに集団で流氷を避けながら帰航の途に就いた。
接触の結果、祐幸丸は、左舷船尾外板の水線面近くに亀(き)裂を伴う凹損を生じて同箇所から機関室に海水が徐々に浸入し、帰航中の10時40分南防波堤灯台から077度2.2海里の地点に達したころ、警報ブザーが鳴ったので、機関室を点検したところ、同室に浸水しているのを認めた。
その後祐幸丸は、排水を試みたものの、徐々に浸水量が増して航行不能に陥り、僚船により羅臼港に曳(えい)航されたのち修理された。

(原因)
本件遭難は、冬期の根室海峡において、流氷の散在する海域を航行するにあたり、安全な速力とせず、見張りを十分に行わなかったことにより、流氷に接触したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、流氷の散在する根室海峡を航行する場合、船首方30メートルばかりが死角となっていたのであるから、大部分が海面下にあってきわめて発見しにくい流氷があることを考慮のうえ、船首部に乗組員を配置するなどして船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、航行に支障となる流氷は遠方からでも視認できるものと思い、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路の流氷に気づかずに進行して流氷と接触し、左舷船尾外板に亀裂を伴う凹損を生じさせて機関室に漫水を招き、航行不能に陥るに至った。






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