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1998年(平成10年)

平成8年函審第78号
    件名
漁船第八俊洋丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成10年10月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、岸良彬、平野浩三)
参審員(藤井武治、烏野慶一
    理事官
山本宏一

    受審人
A 職名:第八俊洋丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第八俊洋丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
C 職名:第八俊洋丸漁労長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
機関室右舷側の外板に破口、船体沈没

    原因
原因不明

    二審請求者
理事官里憲

    主文
本件遭難は、水線下の機関室船側外板に破口を生じたことにまって発生したものである。
破口が生じた原因は明らかにすることができない。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月16日16時10分
北西太平洋
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八俊洋丸
総トン数 498トン
全長 59.43メートル
幅 9.20メートル
深さ 4.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,213キロワット
3 事実の経過
(1) 第八俊洋丸の由来
第五十一俊洋丸(以下「俊洋丸」という。)は、昭和47年11月株式会社Aにおいて第五十一海王丸として進水したウエルデッキを有する中央船橋長船尾楼型鋼製漁船で、まぐろはえ縄漁業に使用されていたものを、同60年にB株式会社(平成7年9月「C株式会社」に社名変更)が購入し、昭和60年11月に函館どっく株式会社函館造船所において船体胴部を4メートル延長し、船名を第八俊洋丸に変更していか一本釣漁業に使用されていた。
(2) 船体構造の概要
全通する上甲板上は、最船首寄りが船首機楼、船体中央部付近から後方が船尾楼、その中間がウエルデッキとなっていて、船首から順に、船首楼に錨鎖庫、甲板長倉庫、船尾楼に冷凍室が左右に分かれてそれぞれ2室ずっとその間に挟まれて予冷室、冷凍機室、食料貯蔵庫、集魚灯用発電機室及び操舵機室が設けられていた。
船尾楼甲板上には、その船首寄りに上下2段の甲板室があり、上段部分は長さ約8.5メートルで前側に操舵室、後方に乗組員居住区、また、下段部分は長さ約19メートルで船尾から約10メートルのところまで達し、その前側半分に乗組員居住区、後側の右舷側に食堂、調理室、左舷側に乾燥室、浴室、便所などが設けられ、食堂より後方の中央部は機関室囲壁となっていて、甲板室下段後壁に接してカッパ室が設けられていた。
上甲板下は、船首から順にフォアピークタンク、左右舷にそれぞれ分かれた燃料油タンク、1番魚倉、2番魚倉、機関室及び燃料油タンクとなっていた。
(3) 機関室の構造及び設備
機関室は、船尾寄りに配置されていて上下3段に区分され、上段が長船尾楼甲板、中段が上甲板上、下段が上甲板下になっており、同室船側のフレーム間隔が55センチメートル(以下「センチ」という。)となっていた。
機関室上段部分は、船尾楼後方の中央部に位置し、前壁が食堂、右舷壁が調理室、左舷壁が居住区通路にそれぞれ隣接し、左舷壁の船首寄りに出入口扉が備えられ、左舷側前部に機関室中段に通じるタラップがあって居住区から機関室に出入りする唯一の通路として利用されており、後部に蓄電池室が設けられていた。
機関室中段部分は、船幅一杯でフレーム番号10番から29番までを占め、前壁が冷凍室、後壁が集魚灯用発電機室にそれぞれ隣接し、中央部が機関室上段及び同下段に通じる開口となって、前壁に沿って5台の冷凍機が配列され、右舷側に主機警報監視盤、主配電盤及び日誌台等があって機関当直場所となっており、左舷側に空調装置及び主作業室兼予備品倉庫が設けられ、後壁に集魚灯用発電機室に通じる出入口扉が備えられていた。
機関室下段部分は、船幅一杯でフレーム番号7番から24番までを占め、前壁が水密隔壁となっていて2番魚倉、後壁の両舷部が清水タンク、中央部の上部が10番及び11番の各燃料タンク、下部が船尾空所にそれぞれ隣接し、中央部に主機、その右舷側に電圧225ボルト容量300キロボルトアンペアの交流発電機を駆動する1号補機、左舷側に同様の2号補機がそれぞれ据え付けられ、前壁の水密隔壁に沿って右舷側から順に、変圧器、燃料油清浄機、主機遠隔静御盤、機関室警報盤、潤滑油サービスポンプ、潤滑油清浄機、ビルジ油水分離器及び雑用ポンプ等、右舷側外板に沿って船首側から順に、1号フロンレシーバ、1号フロンコンデンサ及び1号コンデンサポンプ等、左舷側外板に沿って船首側から順に、2号フロンレシーバ、2号フロンコンデンサ及び2号コンデンサポンプ等後壁の中央部に、2個の主空気槽、ビルジポンプ及び船尾管等がそれぞれ設置されていた。
また、キール上縁からの高さは、上甲板が4.6メートル、主機下部両側の通路区画(長さ5.0メートル幅0.8メートル)の床板が1.4メートル、その他の床板が2.0メートル、船尾管のプロペラ軸上縁が1.6メートルであった。
そして、1号フロンレシーバは、直径95センチ長さ3.0メートルの円筒状で、右舷側外板に沿って、フレーム番号18番から水密隔壁近くまでの位置に水平状態で設置されていて、下縁が床板から20センチ上方で、右縁と外板との間に40センチの空間があったが、この空間には配管が混み合っていた。
機関室のビルジ管系統は、いずれも電動機駆動の、ビルジ油水分離器付属のポンプ、揚程20メートル容量毎時5立方メートルのビルジポンプ及び揚程25メートル容量毎時70立方メートルの雑用ポンプが設備されていたほか、揚程8メートル容量毎時30立方メートルの原動機付き移動式消防ポンプが甲板長倉庫に備えられていた。
ビルジ溜(だ)めは、機関室の前部両舷側に各1個と船尾管近くの下方に1個の計3個あり、これらのほか1番及び2番の各魚倉の後部に各1個設けられていて、ビルジ吸引管の呼び径は、ビルジ油水分離器付属のポンプが25ミリメートル(以下「ミリ」という。)、ビルジポンプが50ミリ、雑用ポンプが65ミリであった。
(4) 船体の保守整備
C株式会社では、所有する船舶の保守整備については、船舶管理部が所掌し、同部の部長であるDして海難関係人がそれらに関する責任を任されており、入渠工事などには標準の工事仕様書を基本にして特に乗組員側から要求があったものについては、その実施についてその都度検討することにしていた。
D指定海難関係人は、工事の実施については船長及び機関長に任せ、問題が生じたときだけ、自身が出向いて処理するようにしていた。
平成5年の入渠工事では、機関室の右舷側シーチェストにベアクラックが発見され、翌6年の定期検査工事では潤滑油サンプタンク船底板に小破口が発見され、それとともに船体各所の板厚計測が行われ、また、翌7年の入渠工事でも機関室の船底外板について板厚計測が行われたが、計測値がフレーム番号22番から23番までの間の建造時の板厚が、10ミリのものについては9.8ミリないし10.0ミリ及び板厚が11ミリのものについては9.9ミリないし12.3ミリで、著しい衰耗は認められなかった。
(5) 本件発生に至る経緯
俊洋丸は、A、B及びC各受審人のほか12人が乗り組み、ニュージーランド及びペルー共和国両海域でいか釣り漁をする目的をもって、同8年1月11日北海道函館港を発し、同2月1日から同4月27日までニュージーランドのチマール港沖合で操業した後、同5月19日からペルー共和国の200海里外の公海海域で約2週間操業し、次に同国の200海里内において操業したが漁模様が思わしくなかったので、同7月16日に北緯40度59分、東経176度35分ばかりの北西太平洋漁場に至り、操業を続けていた。
越えて同9月16日俊洋丸は、05時30分からパラシュート型シーアンカーを投じて昼いか漁を行い、15時00分からC受審人の指示で同人と司厨長除く総員は、容器に入れて凍らせたいかを容器から外す、脱パンと称する作業を開始した。
B受審人は、前示作業を開始するに先立ち、冷凍機を一時停止するために機関室に赴いたが、同室内に異状を認めなかった。
その後、俊洋丸は、漁獲したいかの総量が230トンとなり、船首2.44メートル船尾3.24メートルの喫水をもって漂泊していたところ、突然腐食によるものか、外板とフレームの溶接工作の不具合が関連したもの力か、機関室右舷側のフレ一ム番号22番の外板に、同フレーム溶接部分に沿って水線下約0.6メートルのところを上限とする長さ約40センチ、幅約7ミリを超える破口が生じ、海水が同室に浸入し始めた。
15時10分司厨長は、船橋当直中のC受審人の食事を船橋に運んだあと同時13分食堂に戻ったところ、それまでなかった強い油の臭いを感じたそして、同時20分ごろ同人は、気になって機関室の出入口まで行ってみたところ、燃料油の強い臭いがしたので、やがて脱パン作業を終えて帰ってきた操機長に「油の臭いがきついけど下で何かしているのか。」と尋ねた。
15時30分操機長は、司厨長の話を聞いて直ちに機関室に降りていったところ、同室内に多量の海水が浸入していることを認め、そのことを機関室の上段から中段へ降りてきたB受審人に伝えたあと、船橋に赴き、C受蜜人に機関室に油が溜っているようだと報告した。
B受審人は、機関室の下段に降りたところ、船尾管の上面まで海水が達していたので、すぐにビルジポンプの吐出弁を開き、ビルジポンプのスイッチを入れ始動させたが、雑用ポンプ系統のビルジ吸入弁がすでに水没してビルジ系統に切り替えができなかった。
一方、C受審人は操機長からの報告を聞いて、自ら確かめるため機関室の中段まで赴いたところ、同室に多量の海水が浸入しているのを認め、B受審人に「漏水箇所を早く探せ。」と命じ、他の乗組員に大声で排水作業にかかるよう命じたあと、水かさが見る見る増してくるのでただ事ではないと思い、船橋に戻って付近の同業船に無線電話で事態を説明した。
A受審人は、脱パン作業を終えて機関室の上段でカッパを脱いでいたときポンプを持ってくるようにとの声が聞こえたので、一等航海士とともに甲板長倉庫から移動式消防ポンプとホースを機関屋出入口に運んだ。
B受審人は、機関室の下段でビルジポンプを始動させたあと、中段に上がったところ、移動式消防ポンプのホースが同箇所に運ばれていたので、同ポンプで排水を行うこととし、そのころ海水は、下段下側の床板の上まで達していたが、ホースを引っ張って下段に至る階段を降りきったとき、右舷側の1号フロンレシーパの下方の、前示の破口から海水力勢いよく浸入しているのを認め、そのことを知らせるため操機長にC受審人を呼んでくるよう指示した。
C受審人は、操機長からの知らせで機関室に赴き、B受審人と二人で海水の浸入場所を確認したのち船橋に戻り、付近の同業船に状況について2回目の連絡をしたあと、再び機関室に戻ったとき、補機のフライホイールが天井まで水を巻き上げているのを見て、停電するのは時間の問題だと判断し、取りあえず救命筏の降下を乗組員に命じた。
B受審人は、機関室の内側からの防水措置を検討したが、浸入箇所周辺のスペースは極めて狭く、人が入って作業をすることができないので、それを断念し、移動式消防ポンプにより排水しようとして同ポンプの作動を何度も試みたものの、作動させることはできなかった。
16時10分C受審人は、北緯45度17分、東経161度33分の地点において、周囲が簿暗くなり、船内の照明灯が点滅するようになってきたので、これ以上船内にとどまっているのは危険と判断し、船体放棄することとして退船命令を出した。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
乗組員は、全員救命筏に乗り移り、16時20分ごろ無線連絡を聞いてすぐ近くまで来ていた同業船に全員救助された。
その後、俊洋丸は、徐々に右舷側に傾斜を始め、翌17日11時30分ごろ右舷側ブルワーク上縁が水面にほぼ達したのち、12時45分右舷側に転覆し、のち沈没した。

(原因に対する考察)
1 破口の幅
次の計算から、水面下0.6メートルを上限として上下に約40センチの長さで7ミリを超える幅の破口が生じていたものと認める。
(1) 流量(浸入量)
本件発生時の喫水は、漁獲高や燃料油の残量などから計算で平均3.34メートル、9月17日04時30分時点の写真から平均4.00メートルと求められ、その差が66センチで、同喫水での毎センチ排水トン数が約4トンであることから13時間で264トンの海水浸入となり、この間1時間当たり約20トンの海水の浸入があったことになる。
(2) 計算条件
平均水深h:0.8m(水面から破口中心までの深さ)
破口の長さ:0.4m
平均破口の幅:未知
平均流量Q:20ton/hr≒20m3/hr(平均浸入量)
(3) 計算式(上記の様な状況の下で)

(4) 試算


2 浸入状況
9月16日15時00分から同時13分までの間に機関室右舷側のフレーム番号22番の水面下約0.8メートル(破口の上下の中心位置)の船側外板に上下約40センチ幅約7ミリを超える破口が生じて海水の浸入が始まり、機関室の水面が破口部分まで達するのはかなり早く、ついで機関室の水面と海水面とが同位となるまでも割合早かったと考えられる。
その後、浸入の速度がゆるやかとなり、浸入が始まってから約13時間後の翌17日04時30分でもまだ浮いており、それから更に7時間たった11時30分になっても右舷にわずか傾斜した程度であったが、それから1時間15分後の12時45分に右舷側に転覆している。
浸入が始まってから約13時間後の17日04時30分時点の写真を見ると、トリムがそれほどないことから、海水は機関室の前部隔壁の電線貫通部などの非水密部分を通ってかして、機関室から第2魚倉及び第1魚倉に流れ込んだものと考えられる。
同日11時30分の写真では、船体が右舷にわずか傾斜し、水面がブルワーク上縁のすぐ近くまで来ていてフリーイングポートは概に水面下にあるから、船首の上甲板ば海水に洗われていたと考えられる。
3 破口が生じた原因
船齢が20年を超え、平成5年と同6年に機関室の船底部にそれぞれヘアクラックと腐食によると見られる小破口を生じた事実からすれば、本件の破口は、腐食による可能性が大きいが、破口の大きさからすれば、外板とフレームの溶接工作の仕上げ具合も関連しているものとも考えられるものの、船体が沈没していることから、破口が生じた原因を特定することができない。

(原因)
本件遭難は、北西太平洋の漁場において操業中、水線下の機関室船側外板に破口が生じて大量の海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。
破口が生じた原因は明らかにすることができない。

(受審人等の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
D指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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