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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月26日05時00分 宮崎県油津漁港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十八東竹丸 総トン数 19.85トン 登録長 14.97メートル 機関の種類
過給機付ディーゼル機関 出力 95キロワット 回転数 毎分1,080 3 事実の経過 第三十八東竹丸(以下「東竹丸」という。)は、昭和56年に進水し、沖縄から三陸沖にかけてまぐろ延縄漁に従事するFRP製漁船で、機関室下段の中央に主機を、その右舷側に主機でベルト駆動される220ボルト45キロボルトアンペアの三相交流発電機を、また左舷側に同容量の補機駆動発電機をそれぞれ配置し、更に冷凍機冷却海水ポンプ(以下「海水ポンプ」という。)、魚倉用循環水ポンプ、燃料移送ポンプなどの電動機駆動機器を備え、船尾側のビルジだめには水位上昇を警報するための検知器が取り付けられていた。また、同室上段の船首側に魚倉及び糧食冷蔵庫のための冷凍機用圧縮機及び凝縮器を配置していた。 冷凍機の冷却海水は、主機右舷側の船底に備えられた冷凍機専用のキングストンコック(以下「キングストンコック」という。)から吸入管を経て海水ポンプに入り、吸引・加圧されたのち吐出管から凝縮器の冷却チューブに導かれていた。 キングストンコックは、青銅製で、一辺の長さ約80ミリメートルの角形フランジを形成する上面にゴムシート製ガスケットを挟んで海水ポンプ吸入管のフランジが接続され、同接続部は4組の呼び寸法M12の六角ボルト及びナット(以下「締付ボルト」という。)で締め付けられていた。 東竹丸は、平成9年8月4日合入渠のために宮崎県南那珂群南郷町の造船所で上架されて船体の整備が始められ、同月21日から機関室で凝縮器の冷却チューブの掃除が行われることとなった。 A受審人は、それまで東竹丸の凝縮器を自らの手で開放したことがなかったので、凝縮器の海水入口カバーを取り外す際、同カバーにつながるポンプ吐出側の配管のほかにポンプ吸入側の配管の締付けも緩めないと作業が困難と思い、キングストンコックと海水ポンプ吸入管との締付ボルト4本を緩め、同カバーを外して同月24日の夕刻にかけて冷却チューブの掃除を行い、翌25日08時ごろ下架時刻に間に合わせるよう同カバーを復旧したが、キングストンコックと海水ポンプ吸入管との締付けボルトを締め付けなかった。 東竹丸は、同日10時ごろ下架され、キングストンコックが上架時から開栓されたままであったので、緩んでいた同コックと海水ポンプ吸入管との締付け部の隙間から海水が漏れ始めたが、直ちに主機が始動されて同機駆動の発電機で船内給電が開始され、A受審人ほか4人が乗り組み、船首1.0メートル船尾1.8メートルの喫水をもって宮崎県油津漁港に向けて航行を開始し、10時30分油津漁港旧魚市場前の岸壁に係留された。 A受審人は、下架直後に主機の周辺を一瞥(べつ)しただけで、漏水に気付かず、その後ビルジの警報が鳴らなかったので大丈夫と思い、キングストンコックと海水ポンプ吸入管との締付ボルトを点検することなく、10時40分海水ポンプを始動して魚倉などの予冷のため冷凍機の運転を開始し、その後機関室を離れ、12時過ぎ船橋の温度記録計で予冷が順調であることを確認したのち、15時ごろ機関室に入って補機に電源を切り替え、主機を停止したが、機関室のビルジだめの水位を確認しないまま、既に他の乗組員が帰宅し、在船者が同受審人のみとなっていた本船を離れて自宅に戻った。 こうして東竹丸は、海水ポンプの吸引でキングストンコックの締付け部の隙間からの漏水量がやや少なくなったものの機関室ビルジが増え続け、やがてビルジ水位「高」の警報が吹鳴したが、船内が無人であったので漏水が続き、海水ポンプが水没して停止したのちは漏水量が再び増大し、翌26日05時00分前示係留地点でA受審人が予冷状況の確認と補機の燃料補給のために帰船して、主機のシリンダヘッド上面付近の高さまで機関室に浸水しているのを発見した。 当時天候は晴で風力3の北北西風が吹いていた。 A受審人は、直ちに港内の僚船から借りた排水ポンプなどで排水作業を行い、排水終了時にキングストンコックの締付ボルトが緩んでいることを発見し、同部を締め付けた。 浸水の結果、東竹丸は、主機、補機原動機、発電機及び機関室内の電動機類がぬれ損したが、のち全て洗浄、乾燥、巻き替えなどの修理がされた。
(原因) 本件遭難は、合入渠を終えて油津漁港に係留中、海水ポンプ吸入管の点検が不十分で、上架時に凝縮器の海水入口カバーを開放するために緩められたキングストンコックと海水ポンプ吸入管との締付ボルトが緩められたまま放置され、同締付け部の隙間から海水機関室に浸水したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が、造船所から回航しで海水ポンプを始動する場合、凝縮器の海水入口カバーを開放するのに備えて同ポンプ吸入管の締付ボルトを緩めたのであるから、海水が漏洩(えい)しないよう、キングストンコックと海水ポンプ吸入管との締付け部を点検すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、下架時に漏水に気付かず、ビルジの警報も鳴らなかったので大丈夫と思い、キングストンコックと海水ポンプ吸入管との締付け部を点検しなかった職務上の過失により、緩めたまま放置した同締付け部の隙間から海水が漏洩して機関室に浸水を招き、主機、補機など主要機器をぬれ損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |