|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年3月23日18時05分 福岡県藍島北岸 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートのぞみ 総トン数 3.9トン 全長 11.90メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 169キロワット 3 事実の経過 のぞみは、中央部に操縦室あるFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成9年3月23日05時40分関門港小倉区堺川泊地の係留地を発し、蓋井島方面に向かった。 ところで、A受審人は、のぞみを平成9年1月に中古船で購入し、1週間に1回の割合で六連島、蓋井島及び沖ノ島周辺に友人と釣りに出かけ、沖ノ島の往復の際には燃料の軽油を300ないし400リットル消費していた。 燃料タンクは、操縦室後部甲板下の機関室両舷に容量500リットルのもの各1基が設置され、両タンク間は共通管によって連結されており、各タンクには、黒のマジックで油量が300リットルを示す位置に目印が付けられた長さ30センチメートルのビニール管(以下「油面計」という。)が取り付けられていたが、同油面計にはそれ以外に油量を示す目盛りがなく、また、操縦室にも燃料油量計が備え付けられていなかったので、A受審人は、油面計の黒い目印を見て燃料油量の目安としていた。 これより先、A受審人は、発航前日の22日夕刻関門港小倉区砂津で、タンクローリーからのぞみの左舷側の燃料タンクに軽油を200リットル補給した際、両タンクの油面が均等になるのを待たずに左舷側の油面計だけを見て、油面が300リットルの黒い目印まであったことから、前航の残油量と併せて両タンクの合計の燃料保有量が600リットルぐらいあるものと思い係留地へ戻った。 こうして、A受審人は発航するにあたり、海上の気象状況によっては釣場を沖ノ島に変更しても、同島を往復するのに必要な燃料は十分にあるものと思い、発航時に燃料タンクの油面計を見て燃料油量の確認を十分に行うことなく、主機を始動して機関を極微速力前進とし、係留地を出たあと機関を回転数毎分1,400にかけ、12.0ノットの速力で関門海峡の西口に向かって航行し、06時25分ごろ藍島西方3海里の地点に至ったとき海上模様が穏やかであったので、沖ノ島周辺の釣場まで行くこととし、機関を全速力前進として20.0ノットの速力で進行した。 08時A受審人は、沖ノ島南東方5海里の釣場に着き、漂泊して機関を停止回転とし、時折潮上りを繰り返しながら釣りを行ったのち、11時30分同島南方0.5海里の釣場に移動して釣りをしたものの釣果がなかったので、更に六連島北方の松瀬付近に移動することとし、13時40分同釣場を離れ、藍島北方約1.2海里の地点に向け、機関を全速力前進にかけ20.0ノットの速力で手動操舵により航行した。 15時28分A受審人は、大藻路岩灯標から348度(真方位、以下同じ。)1,200メートルの地点に達したとき、大藻路岩沖合に設置された漁網を避けるため針路を159度に転じて続航中、15時30分大藻路岩灯標から111度250メートルの地点において、のぞみの主機が突然停止した。 A受審人は、主機の再始動を試みたが始動しなかったので、燃料タンクの残油量を点検したところ燃料が次乏していることに気付いた。このころ毎秒約10メートルの北北西風が吹き、波浪が1.5メートルと高くなったので、風下の藍島の島岸に圧流されないよう、船首から40キログラムの二爪錨を投じ、直径30ミリメートルの化学繊維製の錨索を30メートル延出して錨泊し、プレジャーボートを所有している友人に携帯電話で燃料の運搬を依頼した。 その後、風浪が増勢して波高が約3メートルに達し、17時55分のぞみは、錨索が切断されて南方に圧流され、18時05分大藻路岩灯標から166度860メートルの藍島北岸の岩場に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力6の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、福岡管区気象台から、北九州地方に強風、波浪注意報が発表されていた。 その結果、のぞみは、大破し、サルベージ船により引き降ろされたのち解体処分され、A受審人及び友人2人は岩場を伝って藍島に上陸した。
(原因) 本件遭難は、関門港小倉区から蓋井島の釣場に向け発航するにあたり、燃料油量の確認が不十分で、福岡県藍島北方沖合において、主機が燃料欠乏により停止して錨泊中、風浪が増勢して錨索が切断され、風下の藍島の岩場に向かって圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、関門港小倉区から蓋井島の釣場に向け発航するにあたり、海上の気象状況によっては釣場をその遠方の沖ノ島に向かうことを予定していた場合、沖ノ島に変更しても必要な燃料が十分あるかどうかを、燃料タンクの油面計を見て燃料油量の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前日の補給時に、共通管で連結されている両舷の燃料タンクの油面が均等にならないうちに、左舷側燃料タンクの油面計だけを見て油面が黒の目印まであったことから、沖ノ島を往復するのに必要な燃料は十分にあるものと思い、発航時に燃料油量の確認を行わなかった職務上の過失により、主機が燃料欠乏により停止し、錨泊中に風浪が増勢して錨索が切断され、風下の藍島の岩場に向かって圧流される遭難を招き、のぞみの船体を大破させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |