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(事実) 1 事件発生の年月日及び場所 平成9年5月17日04時35分 北海道目梨郡羅臼町相泊漁港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十八祐幸丸 総トン数 9.7トン 全長 16.28メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 120 3 事実の経過 第三十八祐幸丸(以下「祐幸丸」という。)は、平成3年7月に進水し、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、船体のほぼ中央に機関室を有し、機関室囲壁頂部の船首寄りに操舵室が設けられ、同操舵室には主機遠隔操縦装置が装備されていた。 機関室は、中央に主機を装備し、主機の動力取出軸からベルト駆動される充電用発電機及び交流発電機を右舷船首側に備え、電動式の雑用ポンプを左舷中央に設置し、蓄電池を左舷船尾寄りに据え置いていた。 ところで、祐幸丸の雑用水系統は、雑用ポンプ後方の船底付き海水吸入コックから取り入れられた海水が、海水吸入管を通って雑用ポンプにより加圧され、同ポンプ吐出管を経て機関室前部壁沿いの海水管を立ち上がり、甲板上に導かれていた。なお、同ポンプ海水吸入管は、呼び径32ミリメートル長さ約1.2メートルの鋼管で、敷板の下方に配管されていた。 A受審人は、祐幸丸に就航以来船長として乗り組み、羅臼町相泊漁港を基地として早朝出港し、夕刻帰港する操業を繰り返していたもので、平成9年も1月から3月までを休漁したのち4月から操業を再開していたところ、就航以来使用していた雑用ポンプの海水吸入管の肉厚が腐食の進行により著しく薄い状態となり、いつしか同海水吸入管の海水吸入コック寄り約10センチメートル以下「センチ」という。)の箇所に小破口を生じ、これより漏水するようになっていた。 翌5月10日ごろ、A受審人は、出港に先立ち機関室へ下りて見回り点検にあたっていたところ、機関室のビルジ量がいつもより少し増加しているのを認めたが、漏水箇所を調査しなかったので、雑用ポンプの海水吸入管に破口を生じていることに気付かず、出港後ビルジポンプを運転してビルジを排出した。そして、同人は、その後も出港する際ビルジ量の増加を認めたものの、依然漏水箇所を調査せずに、出港後ビルジを排出することで対処していた。 祐幸丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、同月16日04時00分相泊漁港を発し、羅臼町沖合の漁場に至って操業したのち、14時30分同漁場を発し、雑用ポンプを運転して甲板を洗浄しながら同漁港に向かい、15時00分同漁港に入港して相泊港南防波堤灯台から真方位003度120メートルの地点の岸壁に右舷付けで係留した。 続いて、A受審人は、水揚げにかかり、16時00分水揚げを終えて同ポンプを停止し、更に主機を停止したうえ、16時15分同岸壁において、船首0.5メートル船尾0.7メートルの喫水で、翌朝まで停泊することとしたが、機関室内に配管されている海水管に破口を生じることはあるまいと思い、雑用ポンプ用海水吸入コックを閉鎖することなく、船内を無人状態としてA受審人ほか乗組員全員が離船した。 こうして、祐幸丸は、無人状態で係留されているうちに、雑用ポンプの海水吸入管の前示破口が直径約1.5センチに拡大して同破口から機関室内へ浸入する海水量が増加し、翌17日早朝、出漁のため帰船したA受審人が、操舵室から主機を始動したが、警報盤の始動電動機運転表示灯が異常な、点滅を繰り返すので不審に思って機関室をのぞいたところ、04時35分前示地点において、浸水が敷板付近にまで達して主機フライホイールが海水を巻き上げているのを発見した。 当時、天候は曇で風力1の南南西の風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、急いで主機を停止し、付近で出漁準備中の僚船に排水を依頼する一方、敷板を外すなどして浸水箇所を探したところ前示破口箇所が判明し、雑用ポンプ用海水吸入コックを閉鎖した。 その結果、祐幸丸は、主機、交流及び充電用発電機、雑用ポンプ、蓄電池などが濡(ぬれ)損しており、これらの機器を塩抜き乾燥などして修理し、また、破口の生じた海水管をステンレス鋼製のものに取り替えた。
(原因) 本件遭難は、機関室ビルジ量が増加した際、漏水箇所の調査が不十分で、雑用ポンプ用海水吸入管に腐食破口を生じたまま放置したことと、船内を無人として離船する際、雑用ポンプ用海水吸入コックの取扱いが不適切で、海水が閉鎖しなかった同コックを通って同破口から機関室に浸入したこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、船内を無人として離船する場合、海水管に破口を生じても船内に海水が浸入することのないよう、雑用ポンプ用海水吸入コックを閉鎖すべき注意義務があった。しかるに、同人は、海水管に破口を生じることはあるまいと思い、雑用ポンプ用海水吸入コックを閉鎖しなかった職務上の過失により、海水が同コックを通って同海水吸入管に生じた腐食破口箇所から機関室に浸入する事態を招き、機器類を濡損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |