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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年3月3日06時30分(現地標準時、以下同じ。)ごろ ミクロネシア連邦ポナペ港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第一島丸 総トン数 19トン 登録長 14.88メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 257キロワット 3 事実の経過 第一島丸は、昭和60年2月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、操舵室下にある機関室の前部両側には、ディーゼル機関直結の三相交流225ボルトで容量40キロボルトアンペアの発電機が、右舷側は発電機を船尾側に、左舷側は発電機を船首側にしてそれぞれ設置されていた。また、上下になった前部隔壁付きデッキの上段には冷凍機や操舵機油圧ポンプなどが、下段の主機船首側で両発電機の間に、冷凍機の冷却水または甲板の雑用海水として使用される、電動の海水ポンプ2台が設置されていた。 各海水ポンプ出口側は、いずれも前部隔壁沿いの共通管に接続され、弁を開閉することにより冷凍機や甲板に送水できるようになっており、上甲板に至る雑用海水の系統が、呼び径50ミリメートルの配管で左舷側から立ち上がって上段デッキを貫通し、両端にフランジを備えた同隔壁付きのエルボを介して甲板上の配官に接続されていた。 本船は、ミクロネシア連邦ポナペ地区ポナペ港(Pohnpei Harbour)または米国グアム島を基地として、南方漁場での周年操業に当たり、3年ごとに沖縄県泊漁港に帰港して検査工事を行い、平成3年の定期検査で雑用海水系の配管をステンレス製に取り替えるなど、船体や機関の整備が行われ、同7年にそれまで乗船していた機関長が下船したが、その後は機関長を乗せずにA受審人が機関の取り扱いに当たることとし、日本人の機関員一人とフィリピン人や現地人の外国人乗組員とともに、約20日間操業してポナペ港で水揚げする運航を繰返していた。 ところで雑用海水管の系統は、大部分がステンレス管に取り替えられていたものの、隔壁付きの鋼製エルボが取り替えられないまま、竣工後約11年間継続使用されており、経年的な腐食や侵食により曲部上面が著しく衰耗して微小漏水するようになったが、A受審人は、同系統の配管を十分に点検しなかったのでこれに気付かず、ステンレス管に取り替えているので大丈夫と思い、破孔が生じて浸水するおそれのある状態のままエルボを放置していた。 こうして本船は、A受審人ほか7人が乗り組み、操業を終えて同8年2月28日04時ポナペ港に入港し、航行中は自動運転の機関室ビルジポンプを停止し、右舷発電機とともに冷凍機などを運転のままタカティク島(Takatik Island)の飛行場南西方の岸壁に係留中、雑用海水管系のエルボの破孔による漏水で機関室ビルジが次第に増加し、越えて3月3日早朝、床上に達したビルジが同発電機などの内部へ浸入した絶縁低下により、コイルが焼損状態となって煙が機関室内に充満し、同日06時30分ごろ同島航空灯台から真方位206度約200メートルの係留地点において、操舵室内のベッドで休息中のA受審人が、床の機関室出入り用揚げ蓋の穴から白煙が吹き出しているのを発見した。 当時、天候は晴でほとんど風がなく、海上は穏やかであった。 異常に気付いたA受審人は、乗組員を召集のうえ粉末消火器を使用するなどして機関室に入り、床上までのビルジ浸水や発電機の発煙を認め、直ちに左舷発電機に切り替えたが、電路の絶縁抵抗を確かめるなど適切な措置をとらないまま運転を続けたので、出漁準備中の同月5日早朝、絶縁低下していた同発電機も同様に焼損して運航不能となり、本船は発電機2台を日本から取り寄せて取り替えるなどの修理を行った。
(原因) 本件遭難は、機関の取り扱いに当たる際、雑用海水系の配管に対する点検が不十分で、隔壁付きの鋼製エルボが経年的に衰耗して漏水し、増加したビルジで発電機など浸水したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、機関の取り扱いに当たる場合、雑用海水系の隔壁付きの鋼製エルボが、長期にわたり継続使用されている状況であったから、経年的な衰耗を見落とすことのないよう、同系統の配管を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、ステンレス管に取り替えているので大文夫と思い、同系統の配管を十分に点検しなかった職務上の過失により、同エルボから漏水してビルジが増加し、発電機などを焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |