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(事実) 1 事件発生の年月日日時刻及び場所 平成7年9月5日05時05分 北海道知床半島東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十八芳乃丸 総トン数 19トン 全長 22.20メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
558キロワット 回転数 毎分1,400 3 事実の経過 第三十八芳乃丸(以下「芳乃丸」という。)は平成2年9月に進水した、刺網漁業などに従事する鋼製漁船で、甲板下には船首側から順に燃料油タンク、第1ないし第3魚倉、機関室及び船員室を有し、機関室囲壁頂部の船首寄りに操舵室を設け、同室に主機遠隔操縦装置を装備していた。 機関室は、中央にヤンマーディーゼル株式会社が製造した6N160-EN型と称する清水冷却式ディーゼル主機を装備し、主機とプロペラ軸との間に逆転減速機を備え、主機の動力取出軸からベルト駆動される交流発電機を左舷船首側に、同じくベルト駆動される操舵機用油圧ポンプ及び充電用発電機を右舷船首側の左右にそれぞれ設置していた。また、左舷中央部に電動式の魚倉排水ポンプ、右舷船首隅に電動式の雑用ポンプ、右舷船尾側に電動式の燃料油移送ポンプをそれぞれ設置していた。 主機の冷却海水系統は、船底付きの海水吸入弁から直結ポンプにより吸引されて0.8キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に加圧された海水が、清水冷却器、潤滑油冷却器を順に通って二方に分岐し、一方が空気冷却器を経て船外に排出され、他方が船尾方に導かれて逆転減速機の頂部に設けられた同機用潤滑油冷却器に至り、続いてゴム製管継手を通って上方に立ち上がり、舷側外板を貫通して船外へ排出されるようになっていた。 ゴム製管継手は、内径38.1ミリメートル(以下「ミリ」という。)、厚さ6ミリ、端面から他端面の中心までの長さがともに90ミリの90度ベンド管で、内側から順に合成ゴム(以下「内面ゴム」という。)、合成繊維製の補強層、ガラス繊維製の補強層及び合成ゴム(以下「外面ゴム」という。)で積層され、また、製造時の耐圧性能が15キロで、両端部が逆転減速機用潤滑油冷却器の海水出口管及び船外排出用海水管にそれぞれ締付けバンドで固定されていた。 ところで、ゴム製管継手は、締付けバンド付近の内外面ゴムと中間の補強層との間にずれを生じていたことから、運転中に振動、圧力などがずれの生じた補強層に集中的に加わって、いつしか同補強層の網目状の繊維が切断し始め、また、内外面ゴムが運転時間の経過にともない、寒冷地で使用されることによる低温硬化や配管内の凍結により機関始動時の管内圧力上昇の影響などを受けて材料が劣化し、同継手の耐圧性能が除々に低下していた。 A受審人は、本船に就航以来船長として乗り組み、機関の運転及び保守管理に当たり、同6年6月主機の開放整備を行ったが、建造時から4年近く使用し耐圧性能が低下していたゴム製継手について、外見上異状が認められず、また、整備業者から新替えの助言もなかったことから、これを新替えすることなく同整備を終了した。その後、同受審人は、出漁する際、機関室に下りて主機を始動するとともに、機関室を見回ってビルジなどを点検していたが、敷板から上方約50センチメートル(以下「センチ」という。)のところに取り付けられているゴム製管継手に漏(ろう)水などが認められなかったことから、耐圧性能が低下し、耐用期限に達していることに気付かないまま操業を繰り返していた。 こうして、芳乃丸は、A受審人ほか甲板員3人が乗り組み、同7年9月5日03時00分北海道羅臼漁港を発し、同時40分知床半島東方沖合の漁場に至って操業を開始し、その後主機を回転数毎分1,200にかけて漁場を移動中、材料の劣化により耐圧性能の低下していたゴム製継手に亀(き)裂破口を生じて海水が噴き出し、機関室内が徐々に浸水し始め、同日05時05分松法港南防波堤灯台から真方位106度6.1海里の地点において、同室船首側の浸水が船底から60センチに達したころ、交流発電機が冠水して電源を喪失し、作業灯として使用していた集魚灯が消えた。 当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、海上は穏やかであった。 操船中のA受審人は、不審に思って主機を停止回転として機関室をのぞいたところ、ゴム製管継手から海水が噴き出し、浸水面が主機クランク室の中ほどまで達しているのを認め、船員室で休息中の乗組員に指示して主機の停止と海水吸入弁の閉鎖を行わせ、浸水が止まるのを確認したのち操舵室に戻り、無線電話にて僚船に救助を求めた。 芳乃丸は付近で操業していた僚船に曳(えい)航されて羅臼漁港に入港し、機関室内の海水を排出したが、主機、交流発電機、充電用発電機及び電動式の各ポンプが濡(ぬれ)損しており、これらを塩抜き乾燥などして修理し、ゴム製管継手を新替えした。 本件後、機関製造業者は、本件前にもゴム製管継手の破損事故が北海道地域のみに2件起きており、これらはいずれも4年以上使用したものであることから、サービスニュースにて4年以内に同継手を新替えするよう整備業者に推奨し、また、締付けバンドの適正締付けトルクを取扱説明書に記載し、指導する措置をとった。
(原因) 本件遭難は、主機冷却海水系統の整備が不十分で、経年劣化などにより耐圧性能が低下し、耐用期限に達していたゴム製管継手が新替えされず、航行中、同継手に亀裂破口を生じて海水が機関室内に噴き出したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が、耐用期限に達した主機冷却海水系統のゴム製管継手を新替えしなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、通常の点検で同継手表面に外見上異状が認められなかったこと及び本件発生後に機関業者が使用4年以内の新替えをサービスニュースで推奨するようになったことに徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |