|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年2月26日06時30分 和歌山県和歌山下津港 2 船舶の要目 船種船名
引船第十八静丸 総トン数 17トン 登録長 16.08メートル 幅
3.70メートル 深さ 1.90メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
353キロワット(計画出力) 3 事実の経過 第十八静丸は、専ら大阪湾を中心に兵庫県から和歌山県にかけての海域で、台船等の曳航(えいこう)に従事する昭和35年に進水した鋼製引船で、上甲板上ほぼ中央に機関室囲壁、その前方に操舵室、同室前壁に接して船員室がそれぞれ設けられ、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した海水直接冷却方式の6MA-HTS型過給機付ディーゼル機関を装備し、クラッチ式逆転減速機及び中間軸を介してプロペラ軸を駆動していた。 主機の冷却海水は、機関室右舷船尾部の船底に取り付けた海水吸入弁から、呼び径50ミリメートルの配管で海水こし器を介して直結の冷却水ポンプに吸引され、主機、過給機、潤滑油冷却器、空気冷却器等を冷却したのち、主機冷却水出口管で合流し、操舵室やや後方の右舷側船体外板に設けられた船外排出口から排出されていた。 海水こし器は、外径約10センチメートル高さ約170センチメートルの筒形こし器を、切替えコックを挟んで左右に並べた複式のもので、一体形本体内部に2個のこし筒を収め、それぞれ、上方からパッキンを介してふたを取り付け、本体上縁にふた押さえの脚を掛けたうえ、ふた押さえボルトを締め込んでふたの中心を押さえ込むようになっており、減速機右舷方の船底に溶接した取付け台に固定されていた。 ところで本船は、航行中の振動が大きく、特に機関室後部は床プレートが踊るような状態だったので、海水こし器上方の同プレートを含め数箇所の床プレートが、点溶接の要領でフレームに溶接されていた。 A受審人は、平成5年5月から1人で本船に乗り組み、停泊中は主機を停止してバッテリー電源のもと船員室で寝泊まりまりしながら、運航に従事していた。ところで同人は、主機の冷却海水系統について、航行中船外排出口からの冷却海水量に変化がなかったことから、海水こし器のことは全く気にもとめず、また、海水吸入弁はいつも開弁したままで、停泊中も閉弁していなかった。 本船は、鋼管を積載した台船を曳航し、A受審人が1人乗り組み、平成7年2月25日09時ごろ大阪港大阪区を発し、主機回転数を毎分700にかけて和歌山県和歌山下津港に向け航行していたところ、長期間一度も点検されないまま、振動によってふた押さえボルトが徐々に緩んでいた使用中の左舷側海水こし器から、海水が漏洩(ろうえい)し始めてその量が次第に増加する状況となった。このような状況のもと本船は、同日16時ごろ和歌山下津港に入港し、岸壁に着岸した台船に船首をほぼ東方に向けて左舷付けで係留した。 A受審人は、係留作業を終えたのち、揚げ荷役が翌々27日に予定されていたことから、機関室に降りて主機を停止したが、それまで一度も機関室に浸水したことがなかったので大丈夫と思い、いつものとおり海水吸入弁を閉弁することなく、また、ビルジ溜(だま)りのビルジは一瞥(いちべつ)しただけで注意深く点検することなく、その量が通常より増加していることに気付かないまま、18時ごろ機関室から上がり、その後一度も機関室内を点検せずに20時ごろ船員室で就寝した。 こうして本船は、和歌山下津港の岸壁で停泊中、海水こし器から機関室に海水が浸入し続け、翌朝目覚めたA受審人が、船体が右舷側に傾いていることに気付き、不審に思って機関室囲壁の左舷船尾側に設けた入口から機関室内をのぞいたところ、同26日06時30分和歌山北防波堤灯台から真方位044度740メートルの係留地点で、機関室全体が床プレート上まで浸水していることを発見した。 当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、港内は穏やかであった。 A受審人は、直ちに会社に連絡し、同社からの連絡で来援した地元消防署のポンプ車と海上保安部の巡視艇が排水作業に取り掛かり、途中海上保安官とともに浸水箇所を調べるため機関室に入った同人が、同官の指摘で床プレートをバールでこじ上げ、左舷側海水こし器のふたと本体の隙間(すきま)から海水が噴出していることを発見した。 本船は、陸上のドラム缶にビルジ混じりの海水が17缶分くみ上げられて同日11時ごろ排水作業を終えたのち、海上保安部の指導を受け、僚船によって地元造船所に曳航され、上架して各部を精査し、ほかに浸水箇所はなく、また機関室内の機器に損傷がないことを確認のうえ、海水が混入した主機及び減速機の潤滑油をそれぞれ新替えした。
(原因) 本件遭難は、主機を停止して停泊するにあたり、機関室ビルジの量に異状がないか点検が不十分であったことと、主機冷却海水吸入弁の取扱いが不適切で、開弁されたままの同弁を経て、ふた押さえボルトが緩んでいた海水こし器から多量の海水が機関室内に浸入したこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機を停止したうえ機関室を無人として停泊する場合、主機冷却海水系統に漏洩箇所があっても機関室内に海水が浸入することのないよう、海水吸入弁を閉弁すべき注意義務があった。ところが、同人は、それまで一度も機関室に浸水したことがなかったので大丈夫と思い、いつもどおり海水吸入弁を閉弁しなかった職務上の過失により、同弁を経て多量の海水を海水こし器から機関室内に浸入させ、主機等の潤滑油に混入させるに至った。 |