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1998年(平成10年)

平成8年広審第71号
    件名
漁船金比羅丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成10年2月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

亀山東彦、上野延之、花原敏朗
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:金比羅船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機及び集魚灯用安定器などぬれ損、発電機及びビルジポンプ新替え

    原因
機関室ビルジ警報装置及び同室ビルジ量の点検不十分

    主文
本件遭難は、機関室ビルジ警報装置及びビルジ量の点検がいずれも不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年7月7日19時40分
日本海 隠岐諸島沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船金比羅丸
総トン数 19トン
全長 23.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット
3 事実の経過
金比羅丸は昭和60年6月に進水し、いか一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、船体中央部船尾寄りに機関室があり
、同室には、中央部に主機、その後方に逆転減速機、前方に動力取出軸を介して駆動される交流発電機及び蓄電池を充電するための直流発電機を備え、前部及び後部隔壁に沿って前部は3段、後部は2段にそれぞ積み上げられた合計46台の集魚灯用安定器、後部隔壁中央下部両舷側に2台のビルジポンプを装備していた。
また、プロペラ軸が貫通する船尾管には、船首側にリグナムバイタ製支面材を、船尾側に合成ゴム製支面材をそれぞれ装着し、同管の機関室側先端に船尾管グランド部を設け、グランドパッキンを充して同管から海水が機関室に浸入するのを防止するようになっていた。
ところで、ビルジポンプは、平成4年5月に2台とも容量が全揚程8.7メートルにおける吐出量毎分20リットルのものに更新されたが、両ポンプとも、手動始動及び自動停止方式であったので、翌年、右舷側ポンプについては、自動発停するように改装されていた。しかし、両ポンプとも60分定格であったことから、ビルジが異状に増加して、これを超える長時間の運転を行うと、電動機が焼損するおそれがあった。
また、機関室にはビルジ警報装置が設置され、船橋に赤色ランプとブザーとで水位に応じて二段階で警報を発するようになっていた。
A受審人は、本船竣工時から船長として乗り組み、日常の機関室内機器の点検は甲板員にほとんどまかせていたうえ、機関室には自動発停するビルジポンプを備え、これまで機関室ビルジの自動排出は順調に行われていたこともあって前示ビルジ警報装置を十分に点検していなかったので、いつしか同装置がセンサーの不良などにより作動しなくなっていることに気付かなかった。
本船は、A受審人のほか2人が乗り組み、操業の目的で、平成7年7月7日08時30分石川県金沢港を発し、主機を回転数毎分1,500にかけ、隠岐諸島白島埼北東方63海里の漁場に向け、ビルジポンプ1台を自動発停にし、機関室を無人として航行するうち、船尾管からの漏水量が著しく増加し、ビルジポンプが自動始動したが、1台では排出が間に合わず、その後同ポンプの電動機が長時間の連続運転によって焼損し、同室ビルジの水位が異状に上昇してきたものの、機関室ビルジ警報装置が故障していて警報を発しなかった。
A受審人は、機関室ビルジは自動排出されており、もしビルジポンプが故障してビルジが異状に増加しても、機関室ビルジ警報装置があるから大丈夫と思い、漁場へ向けて出航後から長時間にわたり機関室ビルジ量の点検を行わなかったので、ビルジ水位の上昇に気付かなかった。
こうして本船は、同日19時30分に漁場に至り、主機を中立運転として操業準備にかかり、主機の回転数を毎分1,800にかけ、交流発電機の発生電圧を上げて集魚灯を順次点灯中、19時40分白島埼灯台から真方位035度63海里の地点において、機関室ビルジの水位が主機クラッチ上部カバーまで達するようになり、たまたま機関室内をのぞいた甲板員が、主機のフライホィールが水を跳ね上げているのを発見し、A受審人に報告した。
当時、天候は雨で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、甲板員の報告を受けて直ちに主機を停止し、左舷側のビルジポンプと持運び式の水中ポンプを使用して機関室の排水にかかり、20時40分ごろほぼ排水を終えて機関室内を点検したところ、船尾管からの海水浸入を認め、船尾管グランドパッキンの増締めを行って浸水を止めた。
本船は、浸水した逆転減速機の潤滑油を新替えして主機を始動し、22時過ぎに漁場を発し、翌8日09時ごろ金沢港に戻り、のちぬれ損を生じた主機及び集魚灯用安定器などの修理と、発電機及びビルジポンプの新替えなどが行われた。

(原因)
本件遭難は、自動発停のビルジポンプによって機関室のビルジを排出しながら航行する際、機関室ビルジ警報装置及び同室ビルジ量の点検がいずれも不十分で、船尾管から多量の海水が同室に流入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、自動発停のビルジポンプによって機関室のビルジを排出しながら航行する場合、ビルジが増加して定格を超える連続運転により同ポンプが故障することがあるから、ビルジが異状に増加することのないよう、同室ビルジ量の点検を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ビルジが異状に増加しても、機関室ビルジ警報装置があるから大丈夫と思い、漁場へ向けて出航後から長時間にわたり同室ビルジ量の点検を行わなかった職務上の過失により、機関室に浸水を招き、主機、主機駆動発電機及び集魚灯用安定器などにぬれ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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