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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年7月16日01時30分 和歌山県和歌山下津港 2 船舶の要目 船種船名
油送船大進丸 総トン数 598.34トン 登録長 54.15メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 956キロワット 3 事実の経過 大進丸は、潤滑油半製品の国内輸送に従事する、昭和55年に進水した船尾機関室型鋼製油送船で、機関室のほぼ中央に株式会社赤阪鉄工所製造のDM28AR型主機を据え付け、前部の動力取出軸でクラッチ及び増速機を介し、2台の貨油ポンプを駆動できるようになっており、主機の左右両舷にディーゼル原動機(以下「補機」という。)によって駆動される交流発電機各1台をそれぞれ装備していた。なお、主機据付け台板は、機関室下段の床プレートから約0.75メートル低い位置に据えられていて、同台板の両側が幅約1メートルの通路となっていた。 機関室前方に隣接する貨油ポンプ室には、右舷側からバラストポンプ、2台の貨油ポンプ及びビルジ兼残油ポンプがそれぞれ設置され、隔壁を貫通する各駆動軸によって機関室内に据え付けた増速機または電動機と連結されていた。そして、機関室内の主要ポンプは、いずれも電動横置き形で、主機前部の両側通路上の右舷側に雑用水兼消防ポンプ、左舷側にビルジバラストポンプ、また、下段床プレート上の1号発電機後方に主機冷却海水ポンプ、2号発電機後方に海水サービスポンプ等がそれぞれ設置されていた。 補機は、昭和精機工業株式会社が製造した、定格出力84キロワット同回転数毎分1,200の5KDL型無過給4サイクル5シリンダ・ディーゼル機関で、発電機とともに右舷側が1号機、左舷側が2号機と称され、それぞれ機関室床プレートとほぼ同じ高さに設けられた同一台板上に、船首側から補機、発電機の順に配置して据え付けられ、入出港スタンバイ時に並列運転されるほかは、ほぼ2日ごとに切り替えて単独運転されていた。 補機の冷却は、直結の冷却清水ポンプによる間接冷却方式で、清水冷却器及び清水膨張タンクを主機と共通使用するようになっていた。一方、左舷側シーチェストから、海水吸入弁を介して海水サービスポンプにより吸引された海水が、約2キログラム毎平方センチメートルに加圧され、潤滑油冷却器を通って船外に排出されるようになっていたほか、主機運転中は主機冷却海水ポンプによって冷却される清水冷却器に、交通弁の操作で通水できるようになっていた。 補機の潤滑油冷却器は、架構右舷側の吸気マニホルド下方にほぼ水平に取り付けられ、冷却海水が船首側から船尾側に通るようになっていて、鋳鉄(FC20)製の海水出口及び入口側カバーには、それぞれ、側面に呼び径32ミリメートル(以下「ミリ」という。)の海水管が菱形フランジで接続され、また、上部に設けたプラグ穴には、保護亜鉛用の六角頭プラグが、上方から垂直に捩(ね)じ込まれていた。そして同プラグは、軟鋼(SS41)製で、呼び径25ミリ呼び長さ12ミリのねじ部に、ピッチ2ミリの細目ねじが切られ、下面中心に開けたねじ穴を利用してゴムパッキンを介し保護亜鉛を取り付けるようになっていた。 ところで、保護亜鉛は、新替えの際に、消耗状態を確認して取替え間隔を決める必要があり、完全に消耗しないうちに早目に取り替えないと、周囲の海水流路や取付けプラグ本体を腐食させるおそれがあった。しかし2号補機入口側カバーの保護亜鉛は、3箇月をめどに取り替えられていたものの、新替え時にはいつもほぼ完全に消耗しており、長年使用された同カバーの保護亜鉛用プラグ(以下「保護亜鉛プラグ」という。)が、亜鉛取付け面からねじ山にかけ、プラグ穴とともに海水側から徐々に腐食し始めていた。 A受審人は、平成5年9月から機関長として本船に乗り組み、一等機関士と交替で自らも機関室当直に就きながら、機関の運転管理にあたり、当直中には機関室各部の温度計及び圧力計の示度などのほか、異音や各種配管に漏洩(ろうえい)箇所がないか点検していたところ、同7年4月初旬に亜鉛を新替えされた保護亜鉛プラグの腐食が進行し、外部に海水がにじみ出る状況となった。ところが、同人は、同プラグが緩むことはあるまいと思い、2号補機運転中、同プラグ周辺など冷却海水系統全般を十分点検することなく、運転を続けていたので、同プラグからの海水漏洩量が徐々に増加していることに気付かなかった。 本船は、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.60メートル、船尾3.00メートルの喫水をもって、平成7年7月14日12時40分、和歌山下津港海南区の公共岸壁に右舷付け着岸し、着岸終了まで並列運転していた発電機を、2号発電機の単独運転に切り替えたうえ、翌々16日の積荷役まで待機することとなった。 A受審人は、翌15日午前中、一等機関士とともに海水こし器掃除等の船内作業を行い、午後は自ら停泊当直を引き受け、21時30分ごろ機関室を点検したが、ビルジだまりと2号補機の計器盤をいちべつしただけで、保護亜鉛プラグから漏洩した海水が下方に滴下し、海水入口カバー周囲に凝縮した塩分が固着する状態となっていることに気付かないまま、21時35分ごろ同室から上がり、自室で休息した。 こうして本船は、2号補機及び海水サービスポンプを運転し、機関室を無人として停泊中、周囲から海水が糸状に噴出し始めた保護亜鉛プラグが、機関の振動に伴い短時間のうちに緩んで抜け落ち、プラグ穴から多量の海水が室内に浸入し始め、翌16日01時30分海南北防波堤灯台から真方位072度1,960メートルの係留地点で、A受審人が、手洗いに行く途中に焦げ臭い異臭に気付いて機関室をのぞき、下段床プレートの上まで浸水していることを発見した。 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、港内は穏やかであった。 A受審人は、そのまま機関室下段まで駆け降り、電動機が焼損して海水サービスポンプが停止していたため、浸水箇所が分からないまま、海水に浸かりながら手探りで同ポンプの吸入弁を閉止し、続いて2号補機を停止して一等機関士を起こし、2人でしばらくの間浸水が止まったか様子を確かめたうえ、03時ごろ船長に報告した。 本船は、同日10時すぎ船長の手配で現場に到着したビルジ回収船により排水作業が開始され、16時20分ごろ終了した。その後主機メーカー等が機関室内を精査してバラストポンプ、ビルジ兼残油ポンプ、雑用水兼消防ポンプ、ビルジバラストポンプ及び主機冷却海水ポンプ等の各電動機が濡(ぬ)れ損し、海水サービスポンプの電動機が焼損していたほか、主機、増速機及び減速機の潤滑油に海水が混入していることが判明し、のち、内部掃除のうえ潤滑油が新替えされ、各電動機はすべて中古品と取り替えられた。なお、冷却阻害のおそれがあった2号補機も開放点検されたが異状はなく、潤滑油冷却器の海水入口カバーを新替えしただけで復旧された。
(原因) 本件遭難は、補機の冷却海水系統に漏洩箇所がないか点検が不十分で、潤滑油冷却器海水カバーの保護亜鉛プラグが、腐食したねじ部周囲からわずかずつ海水が漏洩するまま、新替えされずに運転が続けられ、和歌山下津港において、機関室を無人として停泊中、腐食が進行して同プラグが抜け落ち、多量の海水が同室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、機関の管理にあたり、補機の運転状態を点検する場合、冷却海水系統から海水が漏洩していれば、漏洩量が増加しないうちに対処できるよう、漏洩箇所がないか保護亜鉛プラグ周辺など系統全般を十分点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、同プラグが抜け落ちることはあるまいと思い、冷却海水系統全般を十分点検しなかった職務上の過失により、新替えされなかった同プラグが抜け落ちて多量の海水を機関室に浸入せしめ、電動機濡れ損等の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |