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1998年(平成10年)

平成10年函審第7号
    件名
漁船平成丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成10年6月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、米田裕、大山繁樹
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:平成丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
沈没、のち廃船

    原因
異常な気象・海象

    主文
本件遭難は、港内に係留中、防波堤を越えて打ち込んだ異常な大波を受けて係船柱が破損し、ブルワーク及び外板が脱落して浸水したことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月4日03時30分
北海道函館市志海苔漁港(銭亀地区)
2 船舶の要目
船種船名 漁船平成丸
総トン数 4.62トン
登録長 9.95メートル
幅 2.60メートル
深さ 0.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
平成丸は、昭和45年7月に進水した一本釣り漁業に従事する木製漁船で、A受審人が船長として一人で乗り組み、自宅に近い北海道函館市志海苔漁港を基地として操業していたところ、銭亀沢漁業協同組合のこんぶ魚礁の調査を引き受けた会社から、同魚礁設置場所に潜水夫を乗せていくことを依頼され、平成9年1月28日志海苔漁港(銭亀地区)(以下「銭亀地区」という。)に回航して同調査に備えるとともに、一本釣り漁業に出漁し、夜間は南防波堤の内側に係留のうえ無人にして帰宅していた。
ところで、銭亀地区は、南側が津軽海峡に面した漁港で、ほぼ東西方向の海岸線から南に向かって東護岸が100メートル延び、その先端から南へ130メートルの長さで東防波堤が構築され、同防波堤の西側200メートルのところに海岸線から南へ向かって西護岸が225メートル延び、その先端から南へ20メートルの長さで西防波堤が構築されていた。更に、東防波堤の南端から260度(真方位、以下同じ。)の方向に291.6メートルの長さで南防波堤が構築され、各防波堤及び各護岸の外側にはほぼ同じ高さまで消波ブロックが据えられ、南防波堤の水面上の高さは約3メートルで、幅は約20メートルあり、西防波堤と南防波堤の両先端間が漁港の入口となっていて西を向いていた。
A受審人は、越えて2月1日14時ごろ銭亀地区の東防波堤側には多数の地元の小型漁船が係留していたことから、そこを避け、南防波堤西端から190メートルの同防波堤内側に、船首0.6メートル船尾1.7メートルの喫水で、船首を西方に向けて左舷付けし、荒天に耐えられるよう、約25センチメートル(以下「センチ」という。)角の船首係船柱に、右舷船首約40度方向に投入した錨に結んだ直径20ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ100メートル、左舷船首約35度方向の南防波堤上の係船用鉄環に取った直径40ミリ長さ10メートル及び左舷船首約70度方向の同鉄環に取った直径18ミリ長さ5メートルの各合成繊維製のロープを係止した。また、約18センチ角の船尾右舷側係船柱に、右舷船尾約10度方向の東防波堤上の同鉄環に取った直径20ミリ長さ100メートルの合成繊維製ロープを係上し、同じ約18センチ角の船尾左舷係船柱に、左舷船尾約20度方向の同鉄環に取った直径40ミリ長さ10メートル及び左舷船尾約50度方向の南防波堤上の同鉄環に取った直径18ミリ長さ5メートルの各合成繊維製ロープを係上したうえ、古タイヤを利用した防舷物を左舷側に8個下げ、船体が防波堤から3メートルばかり離れる状態に係留し、その後荒天で出航できなかったので、朝と夕方来船して係留状態の確認とビルジの排出などを行っていた。
函館海洋気象台は、翌々3日09時45分渡島支庁に大雪、風雪、波浪、着雪の各注意報を発表したのち、18時30分渡島東部にこれらを大雪警報及び風雪、波浪、着雪の各注意報に更新し、また、同日05時35分津軽海峡に海上強風警報を発表し、その後同警報を約3時間毎に更新していた。
A受審人は、3日の朝テレビの天気予報で注意報が発表されていることを知り、朝に続いて夕方17時ごろ平成丸の係留場所に行き、ときどき雪が降っていたが、南東風が弱かったことから、係留状態を確認したのみで帰宅した。その後自宅から見える海岸に打ち寄せるうねりが高くなり、雪が降り積もったので、23時ごろ再び係留場所に行ったところ、風はなく、南東方からのうねりは高くなっていたものの、防波堤を越す状況ではなかった。そこで同人は、船体に積もった雪を除去して係留索の確認を行い、暫時うねりの様子を見守っていたが、これまでうねりが高くなって防波堤を越えて漁港内に打ち込んだことを見たことも聞いたこともなかったので、防波堤の高さ、現在の気象状況及び発表中の警報類からみて大波が直接漁港内に打ち込むことはないものと思い、集まって港内の様子を見ていた漁師の人達とともに家に帰ることとし、翌4日00時30分ごろ帰宅した。
平成丸は、無人のまま係留されていたところ南東方からのうねりが徐々に高まり、03時30分前示の係留地点において、異常な大波が消波ブロック及び南防波堤を越えて漁港内に打ち込み、その直撃を受けて船首係船柱が折損するとともに船尾両舷の係船柱がはぎ取られ、左舷側後部から船尾にかけてのブルワーク及び外板が脱落し、損傷箇所から船内に浸水した。
当時、天候は雪で風力4の南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、南東方からのうねりが高かった。
平成丸は、東防波堤の際まで押し流されて沈没し、クレーン船により引き揚げられたが、のち廃船とされた。

(原因)
本件遭難は、銭亀地区において、南防波堤内側に係留中、同防波堤を越えて打ち込んだ異常な大波を受けて係船柱が破損し、ブルワーク及び外板が脱落して浸水したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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