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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年12月22日05時30分 長崎県平戸瀬戸 2 船舶の要目 船種船名 押船第三岬秀丸
バージ葛城 総トン数 134トン 全長 32.65メートル 83.50メートル 幅
20.00メートル 深さ 7.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
2,942キロワット 3 事実の経過 第三岬秀丸(以下「岬秀丸」という。)は、航行区域を限定沿海区域とする鋼製押船で、A受審人ほか5人が乗り組み、海砂2,200立方メートルを積載し、船首4.80メートル船尾5.30メートルの喫水となった鋼製バージ葛城の船尾部に船首部を嵌合(かんごう)させ、全長約102メートルの押船列(以下「岬秀丸押船列」という。)とし、船首3.80メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成7年12月22日03時10分佐賀県唐津港を発し、長崎県平戸瀬戸経由で同県佐世保港に向かった。 A受審人は、発航操船に引き続き単独の船橋当直にあたり、佐賀県加部島沖合を通過したのち、同県波戸岬沖合から平戸瀬戸北口に向けて南下し、広瀬の北方から同瀬戸に入り、05時27分少し前二目照射灯から082度(真方位、以下同じ。)470メートルの地点に達したとき、針路をほぼ黒子島北東端に向く197度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して10.0ノットの対地速力で進行した。 ところで、A受審人は、本船での平戸瀬戸通航は初めてであったものの、499トン型貨物船での航行経験が多数あり、黒子島付近の状況については良く承知していた。 05時28分A受審人は、広瀬導流堤灯台から261度190メートルの地点に達したとき、南風埼の南方に北上する他船の白、白、緑3灯を視認し、同時28分半同灯台から226度340メートルの地点で、針路をほぼ小田助瀬灯標に向く173度に転じて続航したところ、北上船が針路を右に転じないまま黒子島東岸に向首し、避航の気配のないまま自船の前路に向けて接近する態勢でいるのを認めたが、まもなく同船は右転して自船を替わすものと思い、同船と著しく接近する状況とならないよう、速やかに速力を減じて同船が自船の前路を航過するのを待つことなく進行した。 05時29分ごろ岬秀丸押船列は、A受審人が北上船の白、白、紅3灯を認めたものの、その後、同船と著しく接近する状況となって危険を感じ、北上船を避けるため右舵10度ばかりをとって右転中、05時30分広瀬導流堤灯台から209度740メートルの地点において、船首が60度ばかり回頭してほぼ237度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、同島北東端沖合の浅瀬に乗り揚げた。 当時、天侯は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、付近海域には1.0ノットばかりの北流があった。 乗揚の結果、岬秀丸は、損傷がなく、葛城は、船首部船底外板に亀裂と凹傷を生じたが、自力で離礁し、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、長崎県平戸瀬戸を南下中、北上中の他船が黒子島に向首し、避航の気配のないまま自船の前路に向けて接近する態勢であった際、速やかに速力を減じ、北上船が右転して自船の前路を航過するのを待たず、間近に迫った同船との衝突を避けるため右舵をとって黒子島北東端沖合の浅瀬に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、長崎県平戸瀬戸において、同県佐世保港に向けて南下中、黒子島に向首し、自船の前路に接近する態勢の北上中の他船を認めた場合、同船と著しく接近する状況とならないよう、速やかに速力を減じ、北上船が右転して自船の前路を航過するのを待つべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち北上船が針路を右に転じるものと思い、速やかに速力を減じ、同船が右転して自船の前路を航過するのを待たなかった職務上の過失により、同船と著しく接近するのを避けるため右舵をとって右転中、黒子島北東端沖合の浅瀬に乗り揚げ、葛城の船首部船底外板に亀裂などを生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |