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1998年(平成10年)

平成10年那審第37号
    件名
交通船津島丸乗揚事件〔簡易〕

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年11月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:津島丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部左舷側船底に損傷

    原因
泊地が不適切

    主文
本件乗揚は、泊地が適切でなかったことによって発生したものである。なお、研修員1人が負傷したのは、津島丸を浜から引き出すにあたり、その方法が適切でなかったことによるものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月5日07時15分
沖縄果中頭郡勝連町津竪島
2 船舶の要目
船種船名 交通船津島丸
登録長 9.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 80キロワット
3 事実の経過
津島丸は、沖縄県中頭郡勝連町のB&G海洋センターに勤務するA受審人が沖縄県中頭地区社会体育研究協議会が主宰する宿泊海洋スポーツ研修に参加する者及びカヌー等の研修用具類を同町の平敷屋漁港と津竪島西岸の津竪ビーチとの間で輸送するため、船舶所有者から平成10年6月4日及び5日の2日間の予定で借り受けたFRP製交通船で、A受審人が1人で乗り組み、研修員7人を乗せたほか研修用具類を積載し、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同月4日10時30分研修員8人を乗せた他交通船大安丸とともに平敷屋漁港を発し、同時50分津堅ビーチに至り、浜に寄せて研修員を上陸させ、研修用具類を陸陽げし、11時00分これを終えた。
その後A受審人は、潮流の影響を受け、磯波の発生しやすい遠浅の南北500メートルばかりの津堅ビーチで長時間停泊すると、錨を使用するにせよ、危険であったが、浜側からの東風で、海面が隠やかであったこともあって1日ぐらいは大丈夫と思い、研修の間運航する予定がなかった津島丸を最寄りの津堅漁港に停泊させることなく、津堅島灯台から015度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点において、浜から沖に30メートル離れて設置されていた私設の簡易係船浮標に船首から出した合成繊維製ロープにより係留し、船を離れて無人とした。
ところで、簡易係船浮標は、沈めた土嚢(のう)に短い鎖及び長さ5メートル、直径20ミリメートルの合成繊維製ロープにより係止され、手こぎボートあるいは水上オートバイ程度を短時間係留するものであったところ、津島丸程度の船を係留するものとしては適当ではなかった。
A受審人は、研修員とともに津堅ビーチの民宿に宿泊したが、テレビあるいはラジオによる天気情報を入手せず、次第に天候が悪化することを知らず、23時00分浜に出て津島丸の様子を見たが異常を認めなかった。
翌5日06時00分A受審人は、起きて浜を見たとき、雨が降り、強い風が南方から吹いて白波が立ち、荒天模様となっていることを知ったが、荒天に備えていち早く津島丸を津堅漁港に回航することに思い至らず、07時10分民宿から再び津島丸を見たとき、同船が系船浮標係止用ロープが切れたため北方に圧流されている状況のところ、そのことに気付き、同船に近づいて甲板にはい上がったが、どうすることもできず、07時15分津竪島灯台から。15度680メートルの地点において、津島丸は、155度を向いて浜に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力5の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、沖縄本島中南部には大雨、波浪などの注意報が発表されていた。
その後A受審人は、浜に左舷側を寄せられた状態の津島丸の船尾部を浜から離したうえ機関を後進にかけて沖に引き出すこととしたが、その際大安丸に船尾方向に引かせるとか、船尾端右舷にロープを取ったうえ右舷前方に人力で引くなどの方法を取らず、高い波の寄せるなか、応援を頼んだ研修員10人に船尾部を沖側に押させ、自分は甲板上で機関操作の時機を待ちかまえていたところ、10時00分水ぎわ線に対して50度ばかりとなったとき、一段と高い波により船尾部が浜側に押し返され、研修員Bが転倒して船底下となり、肺挫傷及び肋骨骨折を負った。
乗揚の結果、津島丸は、船首部左舷側船底に損傷を生じ、大安丸により引き出され、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、沖縄県津堅島において、長時間停泊する際、泊地が不適切で、最寄りの津堅漁港で停泊することなく、潮流の影響を受け、磯波の発生しやすい遠浅の津堅ビーチで私設の簡易係船浮標に係留中、荒天となったとき、同係船浮標係止用ロープが切断して漂流状態となったことによって発生したものである。
なお、研修員1人が負傷したのは、波の高い状況のなか、乗揚状態の津島丸を引き出すにあたり、その方法が適切でなかったことによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、津堅ビーチで研修員を下し、研修用具類を陸揚げしたのち、翌日まで運航の予定のなかった津島丸を停泊させる場合、潮流の影響を受け、磯波が発生しやすい同ビーチでは危険が伴うから、泊地として適切な最寄りの津堅漁港に停泊させるべき注意義務があった。しかるに、同人は、海上が平穏であったこともあって1日ぐらいは大丈夫と思い、津島丸を危険の伴う津堅ビーチに停泊させ、泊地として適切な最寄りの津堅漁港に停泊させなかった職務上の過失により、津堅ビーチにおいて簡易係船浮標に係留中、荒天となったとき、同係船浮標係止用ロープの切断による浜への乗揚を招き、船首部左舷側船底に損傷を生じさせるに至った。






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