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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月14日14時20分 鹿児島県串木野漁港南岸 2 船舶の要目 船種船名
漁船第3えびす丸 総トン数 4.9トン 全長 13.52メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 183キロワット 3 事実の経過 第3えびす丸(以下「えびす丸」という。)は、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成9年6月14日05時00分鹿児島県串木野漁港を発し、同県万之瀬川沖合の漁場に向かった。 ところで、A受審人は、専ら串木野漁港を基地として早朝に出漁して昼過ぎに戻る日帰り操業を行っており、当日もいつもどおり船内で約6時間の睡眠時間をとったものの、船内電源をとるため主機関を駆動していたので船内が暑苦しく、十分な睡眠をとれずに少し寝不足の状態で出漁した。 A受審人は、06時30分万之瀬川西方1海里の漁場に至り、はえ縄漁を2回行ってシマイサキ38キログラムを獲て操業を終え、15時から始まる魚市場のせりに間に合わせるよう帰航することとし、13時08分片浦港灯台から071度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点で、針路を356度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力で、串木野漁港島平泊地に向けて進行した。 発航後、A受審人は、船首方の死角を補うため操舵室天井の開口部から顔を出し、立って見張りに当たっていたが、以前から腰痛の持病があったことから、体を横にしてその痛みを和らげるため、13時30分ごろコード付きの遠隔操縦盤を持って操舵室の屋根に上り、腹這(ば)いの姿勢になって見張りと操舵に当たり、14時07分串木野港灯台から183度2.9海里の地点に達したとき、針路を島平泊地の沖防波堤西端を船首少し右に見る008度に転じて続行した。 転針したころA受審人は、海上が平穏で暖かく、周囲に他の船舶も見当たらず、気の緩みと少し睡眠不足の状態であったことから眠気を催すようになったが、もうすぐ入航するのでそれまでは居眠りすることはないと思い、操舵室内に戻って立ったり、身体を動かしたりし眠気を払うなど居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、操舵室の屋根の上で腹這いの姿勢のままでいるうち、いつしか居眠りに陥った。 こうして、A受審人は、14時19分半沖防波堤西端を右舷側に航過し、島平泊地への転針地点に達したものの、居眠りしていてこのことに気付かず、串木野漁港南岸に向首して進行中、えびす丸は、14時20分串木野港灯台から111度450メートルの岩場に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時であった。 乗揚の結果、船首船底外板に破損を生じたが、自力で離礁してのち修理され、A受審人は、乗揚時の衝撃で海中に転落して8日間の加療を要する頭部外傷を負った。
(原因) 本件乗揚は、漁場から鹿児島県串木野漁港に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港南岸の岩場に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、操業を終えで漁場から鹿児島県串木野漁港に向け帰航中、少し睡眠不足の状態で単独の船橋当直に当たり、操舵室の屋根の上で腹這いになって見張りに当たっているうち、眠気を催した場合、操舵室内に戻って立ったり、身体を動かしたりして眠気を払うなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、もうすぐ入航するのでそれまでは居眠りすることはないと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、同港南岸の岩場に向首進行してこれに乗り揚げ、船首船底外板に破損を生じさせ、自らも頭部外傷を負うに至った。 以上のA受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |