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1998年(平成10年)

平成10年広審第40号
    件名
貨物船第五弘栄丸乗揚事件〔簡易〕

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年11月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奨一
    理事官
副理事官 尾崎安則

    受審人
A 職名:第五弘栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船底外板に軽微な凹損、推進器翼の一部曲損

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が不十分なことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月26日14時00分
広島県尾道糸崎港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五弘栄丸
総トン数 199トン
登録長 47.54メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第五弘栄丸は兵庫県東播磨港を基地にして瀬戸内海諸港の鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材550トンを積載して船首2.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成9年10月26日06時00分東播磨港を発し、尾道糸崎港に向かった。
A受審人は、発航後、自らが甲板指揮にあたる狭水道の航行を除いては船橋当直を2時間交代の単独3直制に定めて航海計画をたて、葛島水道、下津井瀬戸、白石瀬戸及び阿伏兎瀬戸をそれぞれ経由し、広島県百島と同県横島の間の海域を抜けて向島南東端に至り、ここから尾道糸崎港第1区に向け、その後同港内の第1航路を北上することとした。
13時53分半A受審人は、尾道灯台から105度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点に達し、尾道糸崎港の南側境界線付近を航過したところで針路を第1航路の南側入口のほぼ中央に向首する002度に定め、機関を9.0ノットの全速力前進にかけて操舵を自動として進行した。
ところで第1航路は、航路幅が約100メートルで、その南端から000度の方向に約470メートル延びたところで317度の方向に屈曲して約600メートル延び、そこから更に287度の方向に屈曲して420メートル延び、ここが同航路の北端となっており、最初の屈曲点から約300メートルの同航路の両側及び第2の屈曲点の両側には灯浮標が設けられ、最初の屈曲点の南側のものが、尾道糸崎港尾道水道東第1号灯浮標(以下、灯浮標名は「尾道糸崎港尾道水道東」を省略する。)で、以下第4号灯浮標までの順となっており、第1号灯浮標と第3号灯浮標の南側及び第2号灯浮標と第4号灯浮標の北側の水域は、それぞれ底質が砂及び貝殻の水深3メートル以下の浅所となっていて、同区間の航行にあたっては、これらの灯浮標の外側海域に出ることのないよう、船位を十分に確認して進行することが必要な海域で、A受審人もこのことを知っていた。
13時58分少し前A受審人は、尾道灯台から088度2.3海里の最初の屈曲点に差しかかり、針路を前示航路に沿う317度に転じようとしたとき、同航路の中央付近に数隻の漁船が点在しているのを認めると共に、その背後を第三船が反航して航路内を南東進するのを認めたことから機関を7.0ノットの半速力前進に減じると共に操舵を手動とし、針路を326度に転じて第2号灯浮標を右舷船首約1点に見る状況となって続航した。
13時59分少し前A受審人は、第2号灯浮標を右舷側約30メートルに見て航過したが、第三船が点在する漁船の北側を航過しているのを認めたことから、第三船と左舷を対して航行することとし、その航過距離を隔てるため、針路を更に10度右転し、336度に向首したが、第三船と航過後、直ちに航路に沿う針路に復せばよいと思い、船位を確認することなく続航し、その後同航路を外してその北側の浅所に向けて進行したが、第三船との航過距離に気を奪われてこのことに気付かなかった。
14時00分A受審人は、第三船を航過し終え、そろそろ左転しようとしたところ、船底部に軽い衝撃を受け、尾道灯台から088度2.2海里の浅所に原針路、原速力のまま乗り揚げ、これを擦過した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底外板に軽微な凹損を生じたほか推進器翼の一部に曲損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件乗揚は、尾道糸崎港第1航路において、転針して北西進中、同航路内に南東進する反航船を認め、同船との航過距離を隔てるため右転する際、船位の確認が不十分で、同航路北側の浅所に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、尾道糸崎港第1航路において、転針して北西進中、同航路内に南東進する反航船を認め、同船との航過距離を隔てるため右転する場合、同航路の北側は、浅所が拡延する海域であったから、同浅所に接近し過ぎることのないよう、船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに同人は、第三船を航過後、直ちに航路に沿う針路に復すればよいと思い、船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、浅所に向首して乗揚を招き、船底外板に凹損と推進器翼の一部に曲損を生じさせるに至った。






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