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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年2月8日22時40分 四国南西岸オシメ鼻西方ムロ碆(むろばえ) 2 船舶の要目 船種船名
漁船ちゃいか1 総トン数 8.5トン 全長 15.50メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 120 3 事実の経過 ちゃいか1は、A受審人が長崎県の所有者から購入した軽合金製の漁船で、佐賀県唐津市の造船所で船体を整備して船名の書換えを済ませたのち、未登録のまま、同人が1人で乗り組み、友人1人を伴い、高知県高知港に回航する目的で、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成9年2月8日14時30分唐津港を発し、高知港に向かった。 A受審人は、昭和52年にプレジャーボートを購入し、その後高知港を定係地として、長年の間土佐湾内で釣りなどのレジャーを楽しんで操船には慣れていたものの、これまで同湾以外の海域を航行したことがなく、今回の唐津港から高知港までの航海も初めてであった。 発航に先立って、A受審人は、九州北部沿岸、関門海峡及び豊後水道を経て、四国南西岸沖合を航行して高知港に至る航海計画を立てたが、GPSプロッターに日本沿岸の地形が入力されており、以前自船と同型船を購入して同じように唐津港から高知港まで回航した経験を有する友人が乗船しているので、同人から適宜アドバイスを受けて航行すれば問題ないと思い、海図などを備え付けて航行予定海域の水路調査を行っていなかった。 A受審人は、発航後、レーダーやGPSを使用して船位を確認しながら友人と交互に操船に当たり、関門海峡を経て豊後水道を南下するうち、日没となったので、夜間航行を避けて途中で仮泊することも考えたが、友人の仕事の都合から、四国南西岸宿毛湾南部のオシメ鼻とその南西方1.6海里にある蒲葵(びろう)島との間の狭い水路を抜けて続航することにした。 ところで、オシメ鼻と蒲葵島との間には、幸島やムロ碆と称する高さ4.3メートルの水上岩が存在していたが、A受審人は、前示のようにあらかじめ水路調査を行っていなかったので、同碆付近の水路状況を知らなかった。 同日22時05分A受審人は、高茂埼灯台から215度(真方位、以下同じ。)3.1海里の地点に達したとき、友人の航行経験を頼り、針路を蒲葵島と幸島の間に向く127度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で手動操舵により進行したところ、ムロ碆に向かう状況となっていたが、このことに気付かなかった。 ちゃいか1は、同一針路、速力で続航中、22時40分突然衝撃を受け、柏島灯台から176度1.1海里の地点において、ムロ碆の岩礁に乗り揚げた。 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。 乗揚の結果、船尾部船底に破口を生じたほか、プロペラ及びプロペラシャフトに曲損を生じて航行不能となったが、漁船に救助され、のち損傷箇所は修理された。
(原因) 本件乗揚は、購入した漁船を唐津港から高知港に回航する目的で、豊後水道を経由して宿毛湾南部を航行するにあたり、水路調査が不十分で、夜間、四国南西岸オシメ鼻西方沖合を航行中、ムロ碆に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、購入した漁船を回航する目的で、唐津港から高知港に向けて航行しようとする場合、これまで土佐湾以外の海域を航行した経験がなかったのであるから、あらかじめ海図などを備え付けて航行予定海域の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、以前自船と同型船を購入して同じように回航した経験を有する友人が乗船しているので、同人のアドバイスを受けて航行すれば問題ないものと思い、あらかじめ海図などを備え付けて航行予定海域の水路調直を十分に行わなかった職務上の過失により、四国南西岸オシメ鼻西方沖合の蒲葵島と幸島との間を航行中、ムロ碆に向かうようになっていることに気付かずに進行して同碆に乗り揚げ、船尾部船底に破口及びプロペラなどに曲損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |