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1998年(平成10年)

平成10年門審第56号
    件名
漁業取締船雄翔丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年10月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、吉川進、西山烝一
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:雄翔丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
右舷中央部の船底に擦過傷、推進器翼に小欠損を伴う曲損

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月3日12時00分
山口県下関漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁業取締船雄翔丸
総トン数 489トン
全長 55.3メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,103キロワット
3 事実の経過
雄翔丸は、平成4年3月1日から水産庁に用船された、下関漁港、博多港及び長崎港3港を基地とする漁業取締船で、A受審人ほか13人が乗り組み、漁業監督官1人を乗せ、漁業取締りの目的で、船首2.1メートル船尾4,7メートルの喫水をもって、平成9年12月3日11時45分船尾付けしていた山口県下関漁港(本港地区)の竹崎渡船場南側岸壁を離れ、同時55分小瀬戸導灯の前灯(以下「前灯」という。)から078度(真方位、以下同じ。)750メートルの地点で、抜錨して九州北西方海域に向かった。
発航前にA受審人は、出港部署として船首に一等航海士ほか2人を、船尾に二等航海士ほか1人を、機関室に一等機関士ほか1人を配置し、船橋には機関操作に機関長を、操舵に操舵手を付けて操船指揮に当たり、船首両舷から投じていた5節の両錨を揚げたのち、機関を微速力前進にかけ、小瀬戸の少し右側に寄った針路で、7.0ノットの対地速力で進行した。
ところで、小瀬戸は、下関市の本外側とその西方の彦島間に横たわる、関門海峡の北西側から巌流島のある南側につながる屈曲の多い狭い水道で、南寄りの関彦橋近くで水道幅が約60メートルの最も狭い地点に設置されたこう門により二分され、水道の北側に下関漁港の本港地区があった。そして同地区に出入りする船舶は、専ら彦島大橋のある北西側の出入口から出入航し、その最小幅約120メートルの水道に沿って通航していたが、水道の両岸側ほど水深が浅くなっていることから、喫水の深い船舶は、船位を確かめながら水深の深い、中央部の水域を航行していた。
A受審人は、下関漁港に出入りした経験が豊富で、その水路事情に精通していたが発航時からいつものとおり、目見当で小瀬戸の水道の両岸を見ながら、入航船舶を気にして水道の右側寄りをこれに沿って航行し、レーダーで両岸からの距離を測定したり、避険線や船首目標を設定して観測するなど船位を十分に確認することなく航行した。
11時59分A受審人は、前灯から004度410メートルの地点に達したとき、針路を220度に定め、水道がS字形に屈曲して水道幅が約120メートルの根岳ノ岬に差し掛かることとなったが、入航したとき、同岬の南西岸で護岸工事が行われ、岸近くに工事のためのバージが停泊していて、黒色浮標2個が設置されていたのを覚えていたところ、今回同バージを認めなかったことから、バージがいた同浮標の近くまで接近しても水深があるものと判断し、目見当でも大丈夫と思い、船位を十分に確かめなかったので、水道の右側に寄りすぎて、根岳ノ岬南西岸側の浅所に接近していることに気付かず、針路を余裕水深のある水道中央部に向けることなく、原速力のまま進行した。
A受審人は、船位を十分に確認しないで続航し、12時わずか前、小瀬戸の出入口に架かる彦島大橋を見るようになって、入航船舶がないことを確かめたうえ、右舵一杯をとったところ、12時00分、前灯から335度275メートルの根岳ノ岬南西側の浅所に、雄翔丸は、右舷側中央部が原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の西北西風が吹き、潮侯は上げ潮の末期であった。
A受審人は、船体の衝撃で乗り揚げたことを知り、機関を停止し、乗り揚げた状況を調査して機関を後進にかけたが離礁しなかったので、近くの造船所の引船2隻の支援を受け、12時34分離礁した。
乗揚の結果、雄翔丸は、右舷中央部の船底に擦過傷、推進器翼に小欠損を伴う曲損を生じたが、潜水夫により船底を調査し、機関を運転したところ航行に支障がなかったので、そのまま通常航海に戻り、平成10年2月4日中間検査のため造船所に入渠した際、修理された。

(原因)
本件乗揚は、山口県下関漁港の屈曲した小瀬戸を出航中、船位の確認が不十分で、水道の右側に寄りすぎて、根岳ノ岬南西岸側の浅所に接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、山口県下関漁港の屈曲した小瀬戸を出航する場合、同瀬戸両岸近くほど水深が浅くなっているから、レーダーによる距岸の測定や避険線、見通し線の設定及び観測などにより、同瀬戸中央寄りの水深のある水域を通航するよう、船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、目見当でも大丈夫と思い、船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、水道の右側に寄りすぎて根岳ノ岬の南西岸側の浅所に接近し、これに乗り揚げ、右舷中央部船底に擦過傷及び推進器翼に小欠損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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