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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月15日20時47分 明石海峡 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第三十八住若丸 総トン数 497トン 全長 67.50メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力7 35キロワット 3 事実の経過 第三十八住若丸(以下「住若丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船兼砂利採取運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成9年6月15日19時00分、大阪府堺泉北区第2区大浜西町の岸壁を発し、広島県安芸郡蒲刈町の砂利積み込み地に向かった。 A受審人は、船橋当直を、自らを含めて一等航海士、次席一等航海士及び五級海技士(航海)の免状受有者であるクレーン士の4人で、航海の長短にあわせて3時間ないし4時間交替の単独当直制としていた。 発航操船に引き続き自ら船橋当直に就いたA受審人は、操舵スタンド後部のいすに腰掛け、目視とレーダーによって見張りを行いながら大阪湾北部を明石海峡に向けて西行した。 ところで、住若丸は、前日の14日早朝に、砕石を積ん大阪港に入港着岸して揚荷役を行い、同日15時ごろこれを終えたが積地の都合でそのまま着岸して乗組員全員が休息をとったのち前示のとおり発航したもので、A受審人は、十分に休息と睡眠がとれた状態で当直に従事していた。 15日20時25分半A受審人は、江埼灯台から095度(真方位、以下同じ。)2.8海里の、明石海峡航路中央第3号灯浮標(以下、灯浮標の名称については、「明石海峡航路中央」を省略する。)を左舷側100メートルに通過したとき、針路を第2号灯浮標を少し左に見る303度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの東流に抗して12.0ノットの対地速力で進行した。 当時、明石海峡航路付近は、視界が良く海上も平隠であったうえ、永年この海域を航行しているA受審人にとっても珍しいぐらい航行船や漁船が少なかったので同人は気が緩み、20時33分半ごろ工事中の明石海峡大橋の下を通過したころに眠気を催してきたが、いすから立ち上がって体を動かしたり、外気に当たったりするなど、居眠り運航防止の措置をとることなく、第2号灯浮標の転針予定地点まで近いから、それまで居眠りすることはないと思い、いすに腰掛けたまま当直を続けていたところ、いつしか居眠りに陥った。 こうして、A受審人は、20時37分第2号灯浮標を左舷側50メートルばかりに通過したが、居眠りしていてこのことに気付かず、明石海峡航路に沿うよう針路を左に転じないで、原針路、原速力のまま明石海峡北部の陸岸に向かって進行した。 20時47分少し前A受審人は、ふと目が覚めて陸岸に向首進行していることに気付き、あわてて手動操舵に切り替えて左舵一杯をとったが及ばず、20時47分、住若丸は船首が295度を向いたとき、林崎港5号防波堤灯台から109度900メートルの浅礁に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風がほとんどなく、潮候は下げ潮の末期にあたり、明石海峡には約1ノットの東流があった。 乗揚の結果、船首船底部に破口を伴う凹損を生じたが、救助船の来援を得て離礁し、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、明石海峡航路を西行中、居眠り運航防止の措置が不十分で、明石海峡北側の陸岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、いすに腰掛けて自動操舵のまま明石海峡航路を西行中、眠気を催した場合、いすから立ち上がって体を動かしたり、外気に当たったりするなど、居眠り運航防止の措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、予定転針地点まで間もなくであるから、それまで居眠りすることはないと思い、いすから立ち上がって体を動かすなど居眠り運航防止の措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、予定の転針を行うことができないまま明石海峡北側の陸岸に向首進行して浅礁に乗り揚げ、船首船底部に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |